全自動鶴折りマシーン ⑤

「……わかりましたわ」まだ話し始めたばかりだというように、彼女は答えた。金属の塊が床に落ち、地面が揺れた。「あなたに、頼みたい仕事があるのです。復活への祈りを表現する仕事が」

 

紙原は答え、空気が緊張に歪んだ。落ち葉が軒先に舞い、生暖かい風を叩いた。「仕事か。御託はいい。内容と報酬を言え」

 

金髪の女性はなにか感謝のようなものを述べかけたが、紙原の殺気に気づいて口ごもった。そのかわりに、うん、とわざとらしくひとつ頷くと、ようやく彼女は話し始めた。

 

「紙原哲郎さん。あなたは金属加工のスペシャリストだとお聞きしまして」

 

「そうだが、何だ」突っかかるような声。

 

「作ってほしいものがあるのです。いや、折ってほしい、でしょうか」

 

「……金属を、か」

 

「はい」

 

「で、言われたものを作れと」

 

「あなたも気に入ってくれると信じ……いえ、なんでもありません。その通り、作っていただきたいのです」

 

「……なるほど。得意分野だ。口惜しいが、うちを選んだセンスは認めよう」この女はどう見ても胡散臭い、だが少なくとも、調べごとはきちんとしているようだ。その評価を悟られないよう、紙原は付け加えた。「もっとも、仕事を請けるかどうかは別の話だがな」

 

「報酬のことでしたら、ご心配なく。たんまり、用意しておりますわ」彼女は平然と言い、すぐに鞄が広げられた。

 

鞄の中身に、紙原は目を見開いた。

 

驚愕が不快感を塗りつぶし、赤銅の肌に弾けた。「これは……」

 

見たことのないほどに、分厚い札束。それが鞄の中身だった。だがそれ以上に紙原を驚かせたのは、それが紙くず同然の日本円ではなく、いまや闇市場でも手に入らぬ、ジョージ・ワシントンの顔の紙幣だったことだ。

 

女性は畳みかけた。「これは前金ですわ。完成の暁には、この五倍を差し上げましょう」

 

「話を聞かせてくれ」紙原は言った。彼には職人のプライドがある、だがなりふり構っている場合ではないときがあることも、また心得ていた。あとで、この札束を鑑定に出そう。偽札なら、言われたものを作らなければいいだけの話だ。

 

「モニュメントを作ってほしいのです」例の回りくどいおしゃべりを予期していた紙原は、単刀直入な要求に面食らった。「東京の地に捧げる、巨大な金属の千羽鶴を」

 

千羽鶴?」紙原はうまく呑み込めなかった。てっきり、巨大な機械部品か何かを要求されると思っていたからだ。千羽鶴だって? いったい何がどうして?

 

「はい、千羽鶴を」

 

「……何のために?」あまりに奇妙な状況。紙原は平凡な質問を返した。それがこの状況で、職人としての威厳を保つ唯一の手段だった。どうしてそんな、何の役にも立たないものを? どうしてこの女は、こんな大金を支払おうとする? 俺はもっと役に立つものを作れるのだが、そう言おうとしたが、ことばは喉につかえて出てこなかった。

 

「何のために、ですって? 言ったでしょう」当然、と言わんばかりに彼女は言うと、髪をかきあげ、話し始めた。