諸君、現実の美を受け入れよ

「諸君、長すぎる余生に辟易する諸君、健全な肉体に不健全な精神を宿す諸君、創作に職や自己実現をではなく、空虚な日常からの隠れ家の機能を求める諸君、そしてその逃避行が自己実現であるべきだと、みずからを騙し続ける諸君! 諸君は自覚せねばならぬ、諸君の絶望的な確信とは裏腹に、人生は豊かで、楽しく、やるべきことはいくらでもあるということを! あたかもこの現実は見飽きたと言わんばかりに諸君が一度きりの人生を投げ捨て、仮想世界の妄想のみで満足しようともがく間も、諸君が愚弄するこの世界では、小説よりはるかに奇なる事実の奔流が、地に足のついた人間を巻き込み続けていることを! 諸君が希求する、想像の中のユートピアもしくはディストピアは、ほかでもないこの現世に、はっきりと存在していることを! 新たに世界を作り出すまどろっこしい作業の手を止め、現実に少しでも目を向ければ、諸君はいかなる美しさも、退廃も手にできることを! 現世の人生とは断じて懲役刑などではなく、諸君は完全に自由で、それゆえに死とは断じて救済ではないことを!

 

諸君は言う、われわれは生きた証を残さねばならぬのだと。世界がいかに美しくとも、それならばわれわれこそが、その美の集合体に貢献すべきものであると。世界は美しいという当然の事実を諸君はどうにか認め、あるいはそれを議論しても仕方がないと諦め、だがそれでも諸君の意地はどうしてか、その美しさに身を任せるという至高の幸福を、堕落と呼んで蔑み、断固として拒否し続ける。あるいは諸君は世界を虚仮にして、未だ存在せぬ美が存在しうると嘯き、この完成されたユートピアをより美しくするという無理難題へと無謀にも挑戦している。そして実のところ、その試みが玉砕し、世界のありのままの雄大さという普遍的な暴力に打ちひしがれる当然の未来を、ほかならぬ諸君自身が、誰よりもよく知っているのだ!

 

諸君、諸君は夢を持たぬものだ、現実にも妄想にも、作るべき世界を持たぬものだ。世界に不満はなく、変えるための案もなく、それなのに諸君は世界を、それが現実だという理由で遠ざけている。自分なりの真実などといった些細なもののため、それをはるかに凌駕する現実の偉大さを諸君は直視しようともせず、それでいて、諸君みずからの作った世界の中ならば、真実が存在しうると無根拠に信じ込んでいる。諸君、目を覚ませ、当然の帰結に気づけ! 現実に存在しえぬ答えが、どうして諸君の世界に存在しうるのだ?

 

諦めよ、諸君! 諸君に必要なのはまさしく、現実に満足する態度なのだ! やめてくれ諸君、これ以上、すぐ近くの幸せには目もくれず、創作という迷宮に進んで迷い込もうとするのは! 諸君、帰ってこい、帰ってきてくれ……」

 

そして銃声が響き、それ以降、彼のことばを聞くものはなかった。