カンニバル食堂 49

あれから、どれほどの刻がたっただろうか。

 

機械音のない静けさに、ステファンは目を覚ました。あたりは暗く、居場所はわからなかった。ここはどこかの部屋なのだろうか? あるいは、目的も知らぬ施設だろうか? それとも、ステファンの耳がおかしくなっただけで、ここはまだ、無限に廻りつづけるベルトコンベアの上だろうか?

 

身体の内側から不気味に湧き出る不健康な寒気に、ステファンはいまが夜だと考えた。

 

ついでステファンは、頼るべき感覚を探した――そしてそれは触覚だと、徐々に冷めつつある頭脳が導き出した。ステファンはもぞもぞと動いて床を触り、感覚を確かめた――そして、その滑らかな床には、コンベアに特有の段差はなかった。

 

「気づいたのね」 すべての現実を代表するように、キャサリンの声が響いた。

 

キャサリンの動きが空気をかき混ぜ、ステファンの研ぎ澄まされた五感を揺らした。

 

「ここは境目よ」 寝ぼけた頭が質問を考えるよりも早く、キャサリンは話し出した。「輸送施設と、何かの部屋とのね。急いで起き上がらないで、天井は高くないわ」

 

ステファンが真上に手を伸ばすと、指先が埃をぬぐった。ステファンは質問にならない質問を投げた。「……たしかわたしたちは、ボブを追って、それで……」

 

「あなたはわたしを助けようとしてくれて、それで気を失った」 キャサリンは淡々と答えた。

 

「えっと……じゃあ、ここに流れ着いたのか?」 キャサリンの有能な事務的さを心地よく感じながら、ステファンは訊いた。

 

「そうよ」 あらかじめ用意していたかのような口調で、キャサリンは言った。「幸運だったわ。あの輸送施設で長いこと気を失っていたら、身体が裂けても文句は言えないから」

 

湧き上がる寒気が増幅し、ステファンの曖昧な思考は一気に明晰になった。「それは怖いな」

 

「ほんとうに」 キャサリンの安堵に興奮が混じった。その口調に、ステファンはえも言われぬ違和感を抱いた――キャサリンのことばに、いや、おそらくこの状況すべてに。ステファンは忠告を忘れて起き上がろうとし、天井が額を打った。「あっ」

 

「大丈夫?」 とキャサリン。 ステファンは大丈夫だと答え、違和感が吹き飛んだ。

 

「えっと……それでだ」 ステファンは切り出した。「どうやって脱出するかだ。キャサリン、たしかこの場所は……部屋とコンベアの境目だったか」

 

「そう。でも残念ながら、部屋には向こう側から鍵がかかってる」 キャサリンは答えた。「貨物用の出入り口なの」

 

「じゃあ、いったん戻る必要があるな」 ステファンは言った。「また気絶しないように気をつけないとな。今度はこんな幸運に恵まれるとは限らない」

 

「それは……いや、そうね」 自分に言い聞かせるように、キャサリンは答えた。「でも、心配しないで。あなたなら、きっと大丈夫よ。きっと、ね」