カンニバル食堂 43

「おう! こっちだ!」 コンベアの曲がり角から、ボブの身体が飛び出した。顔は良く見えなかったが、天井の光を反射する無精髭で、ステファンにはその姿が、ボブその人だとわかった。キャサリンは友人どうしの再会を邪魔しないよう、洗練された直立姿勢で、ステファンの斜め後ろを控えめに陣取っていた。

 

「こっちを見つけてから、やけに長かったな」 ステファンは、内心の安堵を努めて隠して叫んだ。月並みな再会のことばは、こいつとの腐れ縁には似合わないはずだ。だからステファンは感謝の代わりに、ボブの態度を煽った。「で、親子ごっこには満足したようだな。ようやく自分の置かれた状況を思い出したか」

 

「忘れたわけがないだろ!」 ステファンの想像と違って、ボブはむきになって返した。その口調は不自然にうわずり、ステファンはそれが再会の喜びによるものなのか、それともなにか別の理由なのか分からなかった。ボブの背後にはアンナが隠れ、あの部屋にやってきたときと全く同じ無表情で、ステファンとキャサリンを見つめていた。

 

「すまんすまん、親子の愛は脱出よりも大切なんだったな。立派なお父さんじゃねぇか」 ステファンは煽り続けた。ボブの顔は気づけば十フィートほどにまで近づいており、その顔には確かな怒りが浮かんでいた。その右腕には、どこから調達したのか、金属のパイプが握られていた。

 

「親子じゃないことくらい知ってるだろ!」 ボブは不気味なくらいに逆上して、パイプをステファンの喉元に突き出した。すんでのところでステファンは避け、パイプを払いのけた。ボブは唾を吐いた。「馬鹿にすべきでないことくらいわきまえろ」

 

「悪かった、謝ろう」 身の危険を感じて、ステファンは言った。「で、どうして俺の場所が分かった」

 

「あんたが自分の場所をわかっていないことの方が驚きだよ」 ボブは返した。「そんなことで、ひとりで出ていくことがな」

 

「迷ったんだよ。すぐ帰る予定だった」 きまり悪そうに、ステファンは言った。

 

「言い訳は聞きたくないね」 ボブは返し、そして言った。「待てないあんたが悪いんだ」

 

「わかったわかった、煽ったことはすまなかった」 ステファンは返した。「だが、待って解決する問題か?」

 

「あんたには本当に脳味噌ってやつが入ってるのか?」 とボブ。ことばは普段通りに戻っていたが、その口調にはまだ怒りがこもっていた。「少しは考えてから口を開くんだな」

 

ステファンは一瞬気圧され、そしてすぐにそれを癪に思った。ボブの怒りを知りながらも、それでもステファンは言うのをこらえられなかった。「そうだな。待っていてもなにも解決しない。だがお前は親子の愛とやらにかまけて、問題をただ先送りにした」

 

瞬間、パイプがステファンの肩を狙った。「うるせぇ!」 先ほどよりはるかに高速な突き出し、だがステファンはそれを予期していた。ステファンは間合いを詰め、パイプの距離から逃れようとした。

 

ボブは即座に右手を引き、再びパイプを突き出した。ステファンは身体をひねり、思わず目をつぶった。耳元を空気が裂き……

 

背後で、鈍い音。

そしてステファンは、キャサリンのうめき声を聞いた。