カンニバル食堂 40

「興味深い話だ」 ステファンは言った。

 

キャサリンの話は、ステファンにたくさんの興味深い洞察をくれた。そのなかでも最初のものは、ステファンを取り巻くビジネスについてだった。

 

「人は誰かに育てられて、はじめて人になる」、そうキャサリンは言った。つまりここでは、人権を発生させることなしに、人間をより美味しい人肉にすることができる。もしこの人権観が世の中に許されるのなら、人肉食文化は大きな発展を遂げることだろう。

 

なにせ、美味いものを食べたいという欲望の前では、ひとは簡単に倫理を拡張できるのだから。

 

ついでステファンは、ボブのことを思い出した。想像するまでもなく、これはボブが大好きなたぐいの話だった。ステファンの脳裏にひとつの、異常なほどに具体的な情景が浮かんだ。ボブの店のいちばん目立つ位置に、オカルト誌の一ページが、拡大コピーされて飾られている。表題はこうだ――「全自動で製造される大量の人間たち、その意志無き帝国の決定的証拠!」

 

「面白そうな仕事だな」 ステファンは言った。「誰にも公開できないのが残念だろう」

 

「そうでしょう。ほんとうに、ここでの仕事は誇りだったわ」 キャサリンは明るく言い、だがその目は突如、失われた過去への悔恨に歪んだ。「でも、すべて台無しになってしまった」

 

ステファンは最初からずっと疑問だった。なぜ、キャサリンが捕まったのか。その疑念は、話すごとに増すばかりだった。彼女はこの仕事に誇りを持っている。想像するに、すこぶる有能なメンバーだろう。それなのになぜ、彼女は肉人にまみれて、あの部屋で泣いていたのだろう?

 

しばしの逡巡ののち、ステファンは訊ねた。「だがきみはあの監獄に閉じ込められ、仕事を失ったというわけか。何かしらの裏切り行為の嫌疑で」

 

キャサリンは溜息をついた、これまで聞いたこともないほど長く、重苦しい溜息を。「……そうよ」

 

「どうしてだ」 とステファン。言ってから、ステファンは先ほど、キャサリンが取り乱して言ったことばを思い出した。あなたのせい、確かに彼女はそう言ったのだ。

 

ステファンは迷い、おそるおそる訊ねた。「……わたしとボブの扱いについてか?」

 

重苦しい沈黙が流れた。それはまるで、この広大な空間のすべてが、キャサリンの破滅の責任の重みとなってステファンの肩にのしかかってきたかのような沈黙だった。いや、たとえそうだとしても、おそらくステファンの与り知るところではないだろう。だが与り知らぬがこそ、責任とは重圧なのだ。

 

「……そうよ」 キャサリンは口を開いた。

 

「人権は育てられて宿る、わたしはそう思っていた」 キャサリンは続けた。「そしてここのみなは、その価値観を共有できていると」

 

「そうではないのか」 ステファンは返した。

 

「そう、違った。ほとんどの同僚は、そんなことは思っていなかったの。彼らは単に、人権に無頓着なだけ。肉人たちもわたしたちも、彼らには関係ないの」