カンニバル食堂 ⑲

「真実を見出すには、常に粘り強くなきゃならんからな」

 

言うや否や、ボブは部屋中を歩き出した。まだ見ぬ脱出口を探して。まだ見ぬ真実を探して。その足取りは軽快だった。とても、閉じ込められたひげもじゃの男とは思えないほどに。

 

ステファンも、ボブに続いた。

 

ステファンは思った。認めたくはないが、さっきの言い争いはボブの言う通りだった。ボブはステファンに、考えるための材料を与えてくれた。それなのにステファンはといえば、ただおざなりにあたりを見回して、策はないとこぼしただけだった。

 

たしかにボブはいつも、どうしようもないオカルトにはまり込んでいる。すこしの科学的知識……いや、常識があれば、すぐに間違いだと分かる話に。ステファンはボブのそんな姿を、いつも馬鹿にしてきた。

 

……いや、今も、している。自分の間違いを認めた今ですらも。

 

だがそれでも、ボブがステファンにないものを持っているのはたしかだった。それは、自分自身の中ではつじつまが合っているらしい説明を――ボブ流に言えば、真実を――探し求めようという気概だった。

 

ステファンは考えた。残念ながら、ボブのそれは十中八九、事実を知る役には立たないだろう。奴には事実とそうでないものを区別する能力がない。だからこそ、馬鹿馬鹿しいオカルトにはまり込むのだ。

 

だがいまは、ボブの気概がステファンの心の救いだった。ボブはたしかに、事実を見つけないかもしれない。だがこの苦しい時間を乗り切るために必要なものは、何かを見つけてやろうというボブの野心であり、活力なのだ。

 

ああ見えて、ボブは意外と有能な男なのかもしれない。

 

そして、その活力は、活力への憧れは、次なる真実を教えてくれた。見覚えのない破片が、配膳口のところに落ちていた。ステファンは思わず大声を出した。「おい、ボブ」

 

「何か見つけたか?」 ボブは言い、ステファンのいる配膳口の方へと向かった。

 

「ああ」 ステファンは胸を張った。「これを見ろ。おそらく、飯のトレーかなにかの破片なんだが」

 

ボブはステファンの手元を覗き込むと、その破片を見た。そこには、明らかに人工的な傷が刻まれていた。それはどうやら、文字のようだった。

 

拙い文字だったが、それでも二人は、それを読むことができた。「わたしは、ここよ」

 

「いったい誰なんだろうな」 ステファンは言い、考えた。誰が、なんのために?

 

ふたりの間を、静かな思考が満たした。黙り込むボブ、真剣な表情のボブ。普段のステファンは、そんなボブの考えを馬鹿にしていた。だが今は、ボブに期待している。

 

そう経たないうちに、ボブが言った。「わかったぞ、ステファン」

 

ステファンは内心の期待を隠すために、かろうじて威勢を保った。「真実とやらが、か?」

 

「真実とやら、じゃない。真実だ」 ボブは指を鳴らした。

 

「いいか、ステファン。この文字はどう見ても、何か尖ったもので書かれてる。いや、刻まれてる、と言った方がいいかもしれないな。これがどういうことかわかるか?」

 

「誰かが俺たちにメッセージを伝えたかった、ってことか」 ステファンは言った。

 

ボブは肩をすくめた。「鈍いのは相変わらずだな、ステファン。いいか、まともな奴なら、文字ってのは紙とペンで書くもんだ。でもこれを書いたやつは、わざわざプラスチックの破片に文字を刻んでる。さすがにもうわかっただろ?」

 

ステファンは言った。「そいつは、紙もペンもない場所にいる、ってわけか」 もしそうなら、その誰かは、われわれと同じ境遇なのかもしれない。そして、方法は分からないが、われわれと協力できるかもしれない。

 

だが次のボブのことばは、ステファンの予想をはるかに超えたものだった。

 

「いいや、違うね。そいつは、文字ってのはそうやって書くもんだと思ってる」 ボブは両手の指を鳴らし、言った。

 

「そう、つまりそいつは、古代人なんだよ」