カンニバル食堂 ⑱

「……で、どうやって穴をあけるんだ」

 

一見してなにもない床を目の前に、二人の男が立ちすくんでいた。

 

「それが分かってたら、そもそもここであんたに会うことはなかっただろうな」 ボブは言った。けだるげにあごひげに当てられた両手が、彼がとうにあきらめて、ステファンに頼りきりであることを表現していた。

 

「真面目に考えろ」 ステファンは毒づいたが、彼のほうも策なしだった。「お前が言い出した案だろうが」

 

「そうだ。だから、あんたが考える番だ」 ボブは言った。

 

「どういうことだ?」 とステファン。「お前が考えちゃいけない理由はないだろう」

 

ボブは開き直った。「いいか、ステファン。俺は穴の存在に気づいた。あんたひとりでは、とても気づかないだろう穴にな。だからここからは、あんたの仕事だ」

 

「は?」 こいつと話すのはつくづく骨が折れる。「お前には脱出する気はないのか?」

 

「それはこっちのセリフだよ」 ボブは負けじと言い返した。「俺と言い争ってる暇があったら、さっさと策を考えたらどうだ?」

 

「無茶を言うな」 ステファンはこれみよがしにあたりを見回した。「策があるように見えるか?」

 

「見えねぇから言ってるんだろうが」 とボブ。「だが、ステファン。俺はあんたと違って、策がなくてもあきらめたりはしないぜ。なにせ、俺はつねに、困難な真実を追い求めつづける者だからな」

 

「なにを偉そうに。現にお前は諦めてるじゃないか」 とステファン。

 

「いいや、適材適所だよ、ステファン。俺は真実を見つける。それが俺の得意分野だからな。で、あんたは俺の見つけた真実をもとに、対策を考える。完璧な分担じゃねぇか」 ボブは鼻を鳴らした。

 

「べつに俺は、お前のお世話係になった覚えはないのだが」 ステファンはぼやくと、部屋を適当に一周した。「見ての通りだ。策も何も、ここには使えそうな道具はなにもねぇ」 収監されるときに、ふたりとも身の回りのものはすべて奪われていた。

 

「はぁ」 ボブはため息をついた。「最初からあきらめてるようじゃ、埒が明かねぇな。今だから言うが、正直あんたはもっと賢いと思ってたよ、人肉食協会理事さん」

 

賢いとか賢くないとかの問題じゃないだろ。ステファンはそう返そうとしたが、そう発言する自らの惨めさに気づいて思いとどまった。目の前のこいつにはたしかに腹が立つが、それでもたしかに、床の穴から脱出するという案を出してくれた張本人なのだ。

 

「わかった、ボブ。考えるよ」 だからかわりに、ステファンは言った。「だが別の方針を考える必要がある。床の穴から抜ける以外のな。だからボブ、お前の出番だ」

 

ボブは言った。「そうこなくっちゃ。真実を見出すには、常に粘り強くなきゃならんからな」