カンニバル食堂 ⑯

「どうせそんなことだろうと思ったよ。やはりお前は妄想が過ぎる。もういいか? 話を進めても」 ボブの無根拠な発想に、ステファンは呆れて言った。


「勝手に言ってろよ。せいぜい、目の前の真実にすら気づかないまま一生を終えればいいさ」 ボブはあからさまに気分を害したようだが、飯の正体の話が本題ではないことは分かっているようだった。「で、どう脱出するか、だったか?」

 

「そうだ」 ステファンは言った。「俺はまだここに来てすぐだ。だから正直、ここのことは分からねぇ。お前はどうだ?」


「俺は二日だ。だが仮に来たのが同時でも、俺はあんたよりはよく知ることになるだろうな」 ボブは言った。「真実に目を向けようともしない奴よりは」 まだ根に持っているようだ。

 

「はいはい」 ステファンは受け流した。「で、何か気づいたことはあるか? お前のその、真実への探求心とやらで」


「とやら、とは心外だな」 ボブは訂正を忘れなかったが、だんだんステファンの態度を諦めるようになってきた。「それはさておき、わかったことはある。まず、外に通じる経路は四つある。ひとつは、俺たちが入ってきたドア」 ボブは四本の指を立て、そして人差し指を折った。


「あそこは無理だろうな。鍵がかかってる」 ステファンは言った。


「同感だ。一応試してみたんだが」 ボブは言うと、クリップのようなものを取り出した。「ピッキングは効かなかった」

 

「まあ、普通に考えて、それを警戒しないわけはないだろうな」 ステファンは言った。


「だろうな」 ボブは同意すると、中指と薬指を折った。「で、次があの飯の穴だ。入ってくる方と、出ていく方で総計ふたつ。俺の推論では、出ていく方はそのまま焼却炉に直行だ」


「それは嫌だな。そもそもどちらにせよ、あの隙間には入れなさそうだ」 ステファンは言った。

 

「俺も同意見だ」 ボブはふたたび頷いた。

 

となると、出口はあとひとつ。ステファンは満を持して訊ねた。「じゃあ、四つ目はなんだ」

 

「そう急かすなよ」 ボブは言った。「あんたはなんだと思う?」 

 

ステファンは内心毒づいた。ボブがこう訊くときは、たいてい碌でもないことを考えている。可能性から言って、最後の選択肢がまともであることはほとんどないだろう――焼却炉に直行して、誰の口にも入らない人肉になるのと比べて。だが今回ばかりは、事情が違った。ボブとともに考える以外に、ここを出る方法はないのだ。


仕方なく、ステファンはあたりを見回した。しばらくののち、ステファンは部屋の上隅に小さな換気口を見つけた。「もしかして、あれか? ちょっと小さすぎる気はするが」

 

「ああ、あれもあるな」 ボブは言った。「だが、あれじゃあない。あれにはとても入れないだろうからな」


「じゃあ、五つあるってことにしといてくれよ」 ステファンは言った。


「そうだな。あんたにしては周りが見えてる」 ボブは小指を折り、そして代わりに親指を立てた。そしてその親指で、そのまま床を指した。「答えは、これだ」

 

「どういうことだ? ただの床に見えるが」 ステファンは言った。


「いや、違う。ここを踏んでみろ。で、足音を確かめてみろ」 ボブは得意げに言った。ステファンが言われたとおりに歩き回ると、確かにボブが示した場所だけ、まるで足元に空洞があるかのような足音がした。


「なるほど、穴か」 ステファンは言った。

 

「そうだ」

 

「お前の見立てでは、この穴がどこかにつながってる、ってわけか?」


「よくぞ聞いてくれた」 ボブは手を広げ、その手でステファンの肩を乱暴に叩いた。「いいかステファン。この穴の先は、工場だ」


「どうしてそう思う」 ステファンは訊いた。今回だけは、ボブのことばに真実味を感じた。


「そう急ぐな、時間はたっぷりあるんだ」 ボブは鼻を鳴らした。「じゃあひとつクイズと行こう。育てられた人間たちは、どこをどう通って出荷されると思う?」 得意げな表情。

 

「普通に廊下から、じゃないのか?」 ステファンは腑に落ちない様子で言った、だが本当にそうだろうか? ステファンはここに連れてこられたときのことを思い出した。本当に、この廊下を通って? おそらくことばも通じないだろう奴らを、ステファンは連れて行くことを想像した。それはたいへんに骨の折れる作業だろう。

 

そして次の瞬間、はっとした。

 

「なるほど、そういうことか。部屋には、人肉を出荷するための経路が必要だ。そして飯のシステムから考えれば、この監獄は、人肉用の部屋を流用して作られている」 それなら、うまく脱出できるかもしれない。

 

「そうだ」 ボブは口笛を吹いた。「意外と早く気付いたな。あんたにしては上出来だ」