「とにかく、ここを出る方法を考えよう」 ステファンは高らかに宣言した。
「そうだな」 ボブは同意した。「あんたと同意見ってのは珍しいもんだ」
「それはこちらのセリフだ」 ステファンは言い返した。「オカルトマニアのでたらめに、いちいち合わせていたら日が暮れてしまう」
「だから、俺が調べてるのは真実だって言ってるだろ。オカルトじゃねぇ。ましてや、でたらめなんかじゃあるわけねぇ」 ボブは負けずに言った。
いつもの通り、ステファンは折れたふりをした。「はいはい、わかったよ。で、どうやってここを出ればいい。その真実とやらは、目の前の問題を解決してくれるのか?」
ボブは勝ち誇ったような目でステファンを見た。「いいかステファン、誤解しているようだが、真実ってのはそう簡単に見出せるもんじゃねぇんだよ。文句あるか?」
ステファンは言い返した。「すまん、ボブ。まさかあのお前が、理解しているとは思わなかったんだ。真実の困難さをな」 オカルト雑誌まみれの人肉料理店の店主。もっとマシな判断力があれば、あんなものに興味は持たないだろうに。
「あんた、まだ俺がでたらめを言ってると思ってんだろ」 ボブは言った。「何度も言うが、俺の探しているのは真実なんだ。安っぽいでたらめなんていらねぇんだよ」
「はいはい」 ふたたびの譲歩。「そろそろ本題に入るぞ。ボブ、ここを出るために、なにか策はあるか?」 ボブとの会話はいつもこうだった。いちいち言い返していては進まない、そう分かってはいるが、それでもステファンは言い返さずにはいられなかった。
「仮にあったら、俺はもうこんなところにはいないだろうな」 とボブ。「飯が出てくる穴、あんたも紹介されただろ。で、流れてきた飯、食ってみたんだ」
「どうだった」 とステファン。
「とても食えたもんじゃねぇ」 とボブ。「何が入ってるのかは知らねぇが、すくなくとも、生の人肉でももっと美味いぞ」
「ほう、じゃあとりあえず、人肉じゃあないのか」 とステファン。「リチャードのやつによれば、相当余ってそうな口ぶりだったが」
「いや、人肉かもしれねぇ。わざと不味くなるように加工された、な」 ボブは言った。
ステファンは呆れて言った。「またオカルト癖が顔を出したか。真実とやらはどこへ行ったんだよ」
ボブは言い返した。「オカルトだと? よく考えてみろ、ステファン。あそこに流れてくる飯は、なんのために作られたものだと思う?」
「おそらく、飼料用だろうな」 ステファンは冷静に分析した。「人肉用の人間たちのための」
「そうだ。で、それが俺たち囚人の飯に流用されている」 ボブは言った。
「それと人肉を不味くすることの間に何の関係がある」 ステファンは問うた。支離滅裂もいいところだ。
「やれやれ、あんたは本当に思考力ってもんが足りないんだな」 ボブはあくまで、馬鹿にするのをやめなかった。ボブは唾を吐き、それは壁の白さによく目立った。「人肉用の人間に、美味い人肉が提供されることを考えてみろ。何が起こる」
「なにも起こらんよ。ただ奴らの生活が、ほんの少し豊かになるだけだ」 ステファンは言い返した。いちいち付き合っている気力はない。
「いや、違うね」 ボブは自分のひげをつまむと、そのまま指を鳴らした。「人肉の味を覚えた人間。そして、すぐそばには人肉。しかも、とびきり新鮮ときた。ここまで言えば分かるか?」
「はぁ」 ステファンは溜息をつき、両手を挙げた。「どうせそんなことだろうと思ったよ。やはりお前は妄想が過ぎる。もういいか? 話を進めても」