カンニバル食堂 ⑭

その部屋の壁は真っ白で、監獄と呼ぶには少々広すぎ、そして綺麗すぎた。囚人のひとりはスーツ姿で、上着の角ばった肩は囚人というよりはむしろ、監獄に視察に訪れた高級官僚のようだった。

 

もうひとりの男は彼よりすこし若く、派手な色のシャツにチノパンのいで立ちだった。あごに蓄えられた大量のひげは一見していかついようだが、それは逆説的に、彼にフレンドリーな印象を与えることに貢献していた。

 

ひとりめの男が官僚だと仮定するなら、ふたりめの彼は監獄の管理人だった。そして、その織り込まれた袖の下にはおそらく、札束がたんまりと仕込まれているのだろう。

 

だが現実には、彼らは視察に訪れた官僚でも、監獄の管理人でもなかった。いかに部屋が監獄に見えなかろうが、いかに彼らの身だしなみがととのっていようが、彼らはここから出られないという点で、れっきとした囚人だった。

 

いや、もっと悪いかもしれない。なぜなら、彼らは裁判をはじめ、どんな法規的処置も受けていないのだから。

 

誰も、彼らが捕まっていることすら知らないのだから。

 

ともかく、彼らはふたりとも、互いを驚きの目で見つめ合っていた。そして当然、その驚きは、監獄での蛮行を見逃してもらうための賄賂の額についてではない。

 

そう、ふたりは知り合いだったのである。

 

「「どうしてここにいる」」 ふたりはそう同時に言った。つぎに口を開いたのは、ステファンという名の官僚風の――そして実際に官僚の――男のほうだった。「まさか、お前も調べてたのか。あの肉の正体を」

 

「そうだ。あんたもか」 ボブという名のひげの男が答えた。彼のほうも管理職だったが、それは監獄のではなく、地方のちいさな人肉料理店のものだった。

 

「そうだ」 信じられないというように、ステファン。「お前はどうして、調べようと思ったんだ」 その声は疑問というよりは、身近な同志を見つけた希望と興奮に満ち溢れていた。

 

「どうして、って?」

 

「そう、一介の店主がそんなことを知る必要はないだろう」 ステファンは言った。

 

「わからねぇとは言わせねぇよ。俺をだれだと思ってるんだ?」 ボブは息巻いた。「存在しないはずの工場で生産された、大量の人肉。そんなワクワクするものが、俺の目の前にある。調べないわけにはいかんだろう」

 

「なるほど、趣味も昂じるとこんなことになるんだな」 ステファンは言った。「オカルト的興味ってのも、たまにはなかなかやるもんだ」

 

「オカルト、だって?」 とボブ。

 

「オカルトだろ」 ステファンはぞんさいに言った。

 

「これはオカルトじゃねぇよ」 ボブは言い張った。

 

「いや、オカルトには違いないだろ」 ステファンは言い返した。

 

ボブは肩をすくめた。 「いや、オカルトじゃねぇ。いいかステファン、俺は世界の真実を探求しているんだ。言葉遣いには気を付けた方がいいぞ」

 

ステファンはため息をついた。「わかったよ、わかった。お前は崇高な理念に基づいて動いてる。それでいいか」 このままではらちが明かない。ステファンは譲歩した。

 

「まあそういうことにしといてやろう」 ボブはまだ不満そうだったが、すくなくとも、それ以上の追及はなかった。「で、お前はどうなんだ。まあ、あらかた想像はついているが」

 

「想像の通りだ。人肉協会理事として、これを放っておくわけにはいかない」 ステファンは答えた。

 

「やっぱりな」 ステファンが言い終わる間もなく、ボブは言った。「ということは、だ」

 

「そう、俺たちは仲間だということだ」 とステファン。

 

「そうじゃない」 ボブは右手の指を、高らかにぱちんと鳴らした。「いや、仲間ではあるが、そんなちゃちなもんじゃねぇ。これはチャンスだよ、ステファン。俺の発見する真実は、全米人肉協会という、最高の広告塔を手に入れたってわけさ」