カンニバル食堂 ⑦

ステファンが通されたのは、東の窓に面した応接室だった。その部屋は自宅のリビングほどのサイズで、中央に真新しいテーブルが備え付けられていた。部屋の角では、貧相な観葉植物がカリフォルニアの太陽に当然の敗北を喫していた。そしてそのすべてが、まるで建設中のビルのような、剥き出しのコンクリート張りの中にあった。

 

商談には適さない場所。眩しく差し込む日光さえなければ、ステファンはこの部屋を使われなくなった物置か何かだと思っただろう。だが砂漠の灼熱は、部屋から埃臭ささえも奪い去っていた。この虚無の空間に、唯一残された感覚をも。

 

「お会いできて光栄です、リチャード・コールマン社長」 背の高い女性が入室した。空気が揺れ、それはこの砂漠と同化した部屋で感じられる、眩しさ以外の初めての感覚だった。濃青のスーツに身を包んだ彼女の声は明朗でいて柔らかく、ブロンドの髪は後ろで束ねられていた。縁の大きな緑色の眼鏡が、彼女の飾らない理知的な内面を垣間見せていた。

 

「とても工場って感じの場所じゃねえな」 担当者の身なりを意外に思いながらも、ステファンは準備していたセリフを口に出した。傲慢で恐れ知らずな、リチャードの口調の真似。まともに商談をするつもりがないのなら、相手を怒らせて、少しでも情報を引き出した方がいい。

 

だが女性はその手には乗らなかった。「こちらはオフィス区域になっておりまして。人肉生産の過程を見たくない従業員もおりますので、工場の入り口とは別になっております」 そう言うときわめて慣れた手つきで、女性は手を胸に当てた。「申し遅れました。わたくし、オークランド食肉工場渉外担当、キャサリン・ロドリゲスと申します」

 

「リチャード・コールマンだ、ミズ・ロドリゲス?」 努めて、不遜に。そう聞こえてくれているだろうか?

 

「キャサリンで結構です」 変わらず柔らかな口調。ステファンに彼女の内心ははかれなかった、だがとにかく、尻尾は出さないだろうことはたしかだった。だからステファンは、一歩踏み込むことにした。

 

「じゃあキャシー」 ステファンはわざと愛称で呼びかけた。人を怒らせたいのなら、あらゆる点で侮辱せよ。そのなかのどれかが、相手の心のピンを抜くかもしれない。「知らないだろうが、ここに来るのは初めてなんだ。いっちょ案内してくれるか?」 断るのなら、問い詰めてみよう。断らないのなら、すべてを見てしまおう。

 

「喜んで」 ステファンの予想に反して、キャサリンはすんなりと言った。「それでは順にご案内しましょう」