カンニバル食堂 ⑤

くだんの工場は、空港から七十マイル東の砂漠の中だった。ステファンが行先を示すと、タクシーの運転手は嫌悪をまったく隠さなかった。「帰りも付き合うのはごめんだぞ」

 

結局、機内で作戦は練られなかった。機内のインターネットサービスで、ステファンはオークランド精肉工場について調べてみた――もっぱら、公のパンフレットには載る由もない都市伝説のたぐいを。だが都市伝説どころか、従業員や観光客の何気ないコメントすら、ついに見つかることはなかった。

 

ネットという砂漠の中に、生の痕跡を探す行為。これからの仕事の重要性にもかかわらず、その不毛な行為は、ステファンと現実との間に莫大な砂の壁を築き続けていた。探せども探せども、ただかき回される文字の表層。漠然とした検索結果の砂紋が二十ページ目に達したとき、ステファンは諦めて、ゆっくりと身体を支配しつつある眠気に身を任せることにしたのだった。

 

だがこの地に降り立った瞬間、大型空港の喧騒がステファンを現実に引き戻した。これから行く場所の正体はわからない、だが行かなければならない。タクシーが七十マイルを飛ばす、残されたのはそれだけの時間。その明確なタイムリミットが、ステファンの頭脳を現実へと引き戻した。

 

タクシーは市街地を抜けた。昼間だからか、道路は空いていた。あたり一面の農地、この世で最も普遍的で退屈な景色に囲まれながら、ステファンはふと思った。本当に、そんな工場は存在するのか?

 

彼は思い出そうとした、リチャード・コールマンが見せてくれたあのパンフレットを。だがどんなに考えても、思い出せるのは内容の当たり障りのなさと、企業情報の普通さだけだった。

 

いや、それは少々、普通すぎやしなかったか? たいていの工場には、少しばかり目を引く特徴があると言うのに。

 

加えて、彼は機内での検索結果を思い出した。ステファンは検索が得意なほうではなかったが、それでも、ここまで情報のない施設は珍しかった。いくら人里離れた砂漠の中だからと言って、このご時世、レビューの一件も見当たらない施設なんてあるだろうか?

 

このタクシーは、いったいどこへ向かっているのだろうか?

 

そこまで考えてステファンはようやく、困難から目を背けている自分に気づいた。工場が存在しなければ、どれほど楽だろうかと考えている自分に。

 

タクシーは農地を抜け、金に貪欲な大農家すらも手をつけたがらない、無人の荒野を駆け始めた。


彼は、考えを一段階進めることにした。工場は存在すると仮定しよう。そしてコールマンの店に、実際に人肉を出荷していたと仮定しよう。ならばどうしてわれわれの目をかいくぐって、そんなことができる?

 

恐ろしく、そしてまったく馬鹿げた可能性の数々が、気重なステファンの脳をゆっくりと駆けた。たとえば、オークランド精肉工場はじつは工場ではない。各工場から規格外の人肉を集めて、産地を偽装して安価で販売している。

 

考えうる限りもっとも陳腐な可能性だったが、あらゆる状況証拠にノーを突き付けられていた。協会がそれを把握していないこと、そして何より、あのレストランの香ばしいにおい。

 

次にステファンが考えたのは、あれが人肉ではないという可能性だった。人肉を模したなにか、人肉のようで、人肉よりも美味いなにか。だがステファンの知る限り、そんなものは存在しない。知っているのはむしろ、擬人肉をつくる研究がつねに難航しているという事実だった。

 

その二つが否定されると、すなわち工場で本当に人肉が生産されていると仮定すると、あとの可能性はどれもオカルトだった。隠れて人肉を生産するうえでの最大の課題は、それには母体が必要なことだ。たいていの場合、母体はパートタイムの雇われだ――受精卵の移植を受けたあとはそれぞれの暮らしをいとなみ、十か月後、肉を生産しに戻ってくる。

 

そして、母体の募集情報は、いくら探しても見当たらない。すなわち、工場は母体を、工場の中に匿っている。それはどう見積もっても、採算の取れない戦略だ。たった七ポンドの人肉を、それも市場価格より安価で売りつけるために、ひとりの人間を年中拘束するだなんて! この国の格差はたしかにすさまじいが、それにしても常軌を逸した行動だ。だいたい、誰がそんな労働を……

 

いや、いるかもしれない。ステファンは最も馬鹿らしく、最も非現実的で、そして最も恐ろしい可能性に思い当たった。

 

人肉と同じように、母体も生産されている。

工場の中に、世界と切り離された生命のサイクルが成立している。

 

一面の砂の大地、この灼熱の大地で、ステファンの心臓だけが一点凍り付いていた。