カンニバル食堂 ③

「何の話だか分かんねぇな」リチャード・コールマンはしらをきった。部位ごとにずらりと並んだ人肉が、プラスチックのパッケージを超えて、むせかえるような退廃をにおわせていた。

 

「いいか、コールマン。俺はもう二十年、この業界でやってきてるんだ」ステファンは返した。驕るなよ、若造。「俺が言いたいことは二つだけ。お前は、カリフォルニアのラベルの付いた人肉を出荷している。そして、カリフォルニアに人肉工場はない」

 

「お前の中ではそうなんだろうな」リチャードは不遜にも言い返した。まるで一介の肉屋の店主が、目の前にいる全米人肉食協会の理事よりも経験豊富だと言い張るかのような口調だった。「この肉はたしかにカリフォルニアから来ている。ならば、答えはひとつ。カリフォルニアに工場はある。そして愚かなお前はそのことを知らない」

 

子供じみた言い訳だったが、リチャードのことばはステファンの自尊心をひっかいた。ステファンは努めて憤慨を抑え、言った。「俺は真面目に話しているんだ。人肉を取り扱う企業はすべて、われわれに届けを出すことになっている。われわれも、届けに間違いがないか常に監視している。個人経営のレストランのひとつに至るまで、だ。いったいどうやって、工場がわれわれの目をすり抜けられると思うんだ?」

 

「じゃあ、目が節穴なのはお前だけじゃないってことだな」リチャードは折れなかった。「この肉はほんとうにカリフォルニアから来てるんだ。伝票を調べてもらっても構わない」言いながらリチャードは、ステファンに伝票と、業者の資料を投げてよこした。

 

ステファンは資料を眺めた。カリフォルニア州オークランド精肉工場。資本金、百万ドル。見たところ、会社情報に矛盾はないようだった。業務内容がカリフォルニアの州法に違反しているという、その一点を除けば。

 

ステファンはついで、配送記録を眺めた。トラックの運転手に渡されたらしき伝票には、さきの資料とおなじ住所が印字されていた。何度見ても、整合は取れている。これは一筋縄ではいかなさそうだ、ステファンはそう直感した。

 

「お前の主張は理解した。情報提供に感謝する」ステファンは折れ、リチャードは勝ち誇ったような笑みを浮かべた。その笑みは浅薄で、まるで映画のチンピラが死の直前に浮かべる、偽りの勝利の陶酔のようだった。その表情をたっぷりと見届けると、ステファンはその不快感を、目の前の子羊を全力で引き裂くための動力に変えた。

 

「すなわち、お前は非認可の工場から肉を仕入れ、それを販売したわけだ。連邦人肉処理法第三十二条より、お前は全取引先に対し、謝罪と賠償の義務を負う。そしてしかるのちに、コールマン食肉卸店は取り潰され、店主リチャード・コールマンは裁判所に行くことになる」