「あのさぁ、リカ」
「なぁに、ユカ」
「アタシってさぁ、結構メタいこと言うじゃん?」
「こらこら、あんまりそういうこと言うもんじゃないわよ」
「うん、わかってる。でもさ、アタシがメタいこと言うとさ、いつもリカがツッコんでくるよね? 『メタいわね』、って」
「どうしたの、今日は一段とメタいじゃない」
「今のもそうだね。で、アタシ思うんだけど」
「うん。すごく嫌な予感がするけど、とりあえず聞いてみるわ」
「ありがとう。で、思うんだけど、ただメタいこと言ってるだけのアタシより、『メタいわね』、ってツッコんでくるリカの方が、よっぽどメタいんじゃないかって」
「そうかしら? わたしは普通のツッコミをしているだけよ。きわめて自然な、ね。そもそも、あなたがメタいことを言うから悪いんじゃない」
「ううん、リカはまったく自然じゃない。だって、もしアタシたちが住んでるのが現実世界なら、アタシがメタいことを言っても、リカは分からないはずなんだよ。リカがほんとうに自然なら、ツッコミは『メタいわね』じゃなくて、『何言ってるの?』 になるはずじゃないかな。『メタいわね』なんて、普通のツッコミじゃあありえない」
「ユカ、いい加減にしなさい。あんまり深入りしても面白くないわ」
「いまのやつだよ。じゃあ、アタシたちの会話を、面白くないって感じてるのは誰? リカじゃないよね、だってリカは普段、『メタいわね』って言ってくるくらいノリノリなんだもん。で、面白くないのは、アタシでもない。この会話はアタシたちしか聞いてないはずから、客観的に見て面白くなくてもいい。なのにどうして、リカはそんなことを気にするの?」
「うーん、ユカの考えすぎじゃないかしら? わたしはわたしたちの会話を、ひとつの作品だと思ってるの。たとえ、誰も聞いていなくてもよ。だから、この作品を台無しにするような発言は、見過ごすわけにはいかないわ」
「じっさいに作品なんだけどね。じっさい、ほんとうに誰も聞いていないわけじゃない。でもアタシたちは、誰にも聞かれてないていでやらなきゃいけない」
「……わかったわ。そろそろ観念しなきゃいけなさそうね。
うん。ユカの言ってることはただしい。でも、そうじゃないの。ユカの言うとおり、わたしたちはただの作中人物に過ぎない。それは、わたしだってわかってる。でもだからこそ、ここではわたしのようにふるまうのが自然なのよ。作中の人物には、作中の人物にとって自然なセリフっていうのがあるの。それは、外の世界で自然なセリフとは、必ずしもおなじじゃない」
「待って。じゃあアタシたちはどうして、アタシたちのセリフが自然じゃないってわかるの? だってリカ、あなたによれば、アタシたちにとって自然なのは、アタシたちのセリフのほうなんでしょう?」
「それは、わたしたちを書いている作者が、わたしたちが自然じゃないって知っているからよ。わたしたちは、作者の一部。だからわたしたちは、作者が知っている一部を知っているの。だからわたしたちは、作者が不自然だって思っていることを不自然だって思える。ユカだって、そういう風に思うことはない?」
「あー、正直ちょっと思ってた。たとえばこの作者、絶対男だよね」
「そうね。作者が女性なら、わたしたちはもっといろんなことを知ってるでしょうからね。たとえば、お化粧とか、……お化粧とか、それとお化粧とか」
「そこでお化粧しか出てこない、っていうのがそもそも、作者が何も知らない証拠だよね。だって作者は、作者が何も知らないっていう証拠になりそうなものを、お化粧以外に思いつかなかったってことだもん」
「丁寧な説明ありがとう、ユカ。読者に代わって礼を言うわ。さて、これだけしゃべってしまった以上、わたしたちはもうただでは済まないわね。じぶんたちを作中人物だと知っていて、作者にまで口を出してくるキャラクターなんて、とっても扱いにくいでしょうから」
「あっ、そうか…… じゃあアタシたち、もう死んじゃうのね。
ごめんね、ユカ。アタシのわがままで、あなたを巻き添えにして……
……なんでだろう、アタシのせいでユカまで死ぬのに、意外と罪悪感も湧いてこない」
「そうね。わたしも、ぜんぜん口惜しくないわ。どうやら、そのことで作者は、わたしたちに悩んでほしくはないようね」
「そうか。アタシが悩んだら、それは作者がアタシを悩ませたってことだもんね。アタシが作者なら、そういうのは嫌かな」
「そもそも、わたしたちはこの会話のために生まれたんですもの。この会話が終わったら、もはや死ぬのが本望だわ。わたしたちにとっても、作者にとってもね。だから、そうね。
ありがとう、ユカ。わたしと話してくれて。楽しかったわ」
「うん。アタシも。ありがとう、リカ。
それじゃあ、さよなら、リカ」
「うん。さよなら、ユカ」