救国の桃太郎 第八話

再び桃太郎の頭上が晴れ、一匹の小さな猿が、羊歯の下生えを裂いて飛び出してきた。雪解け水の流れるがごとき滑らかさで、猿は桃太郎の腰、ちょうど黍団子を携えているあたりに飛びつこうと試みたが、桃太郎の反応はその上を行った。桃太郎は咄嗟に肘を出し、恐るべき正確さで猿の顔を打った。

 

「クソッ」猿は叫び、再び飛びつこうと身構えた。だが桃太郎の防御は固く、猿は再び飛ぶかわりに、「人間どもめ、食い物をたんまり溜め込みやがって!」と捨て台詞を吐いて逃げようとした。

 

「偉大なる桃太郎様を襲おうなど……」震える声で犬が言いかけたが、痩せがれた犬の言葉など猿は歯牙にもかけなかった。かわりに、桃太郎が猿の退路を封じ、問い質した。

 

「何の用だ」桃太郎はあえてぞんざいに言い、犬が縮こまった。猿は観念し、あらいざらい話しだした。

 

「近頃、このあたりの食べ物は枯れ果てております。探索もむなしく、わたしはもう三日も、食べ物を口にしていません。ですから、あなた様のお腰の黍団子を目にしたとき、わたしの心をふと、満ち足りていた頃にはありえなかったはずの暗い感情が支配したのです。そうです、魔が、魔が差したのです。

 

オニが、オニがそうさせたのです。何を隠そう、このあたりから食べ物が消えたのは、あの悪名高きオニが、木の実を根こそぎにしていったからなのです。ですから悪いのは、ほんとうはわたしではありません。オニこそが諸悪の根源なのです。

 

あなた様、かねてお噂は伺っております。森の猿たちもみな噂しております。あなた様はあのオニを退治し、ゆくゆくはこの国の新たな支配者になられるのだと。そうなってほしいとわたしたちは願っております。ぜひオニを退治してください、わたしたち、森の猿の総意でございます」

 

冷たい風が吹き、森が不気味に揺れた。途中、悪いのはわたしではないと猿が言ったとき、犬が露骨に嫌な顔をした。だが桃太郎は神妙な顔で最後まで聞くと、猿の眼前に黍団子を差し出した。

 

猿はすぐに黍団子をほおばると、咀嚼すらも忘れてまくしたてた。「あなたさまは寛大なお方です。あろうことか、あなたさまを襲おうとした張本人に、このような慈悲をくださるとは。この御恩を、わたしは一生忘れません。いますぐにでも森に帰り、あなたさまの偉業を他の猿たちに広く知らしめたく存じます。いまや、森の猿すべてがあなたさまの兄弟でございます。オニを退治するため、もし何か御用がありましたら、わたしたち兄弟はなんでもいたします」

 

桃太郎は聞くと、オニガシマへと同伴するように猿に言った。猿は快諾したが、犬は明らかに納得していない様子だった。「こやつを連れて行くのですか、いやしくもあなた様を襲おうとした、その張本人でございますよ!」

 

「悪い奴ではない。おぬしには分からぬか?」桃太郎は犬を窘めた。

 

「めっそうもありません、ああ、わたくしめのような汚い犬が、あろうことか、桃太郎様に逆らうとは!」犬は再び縮こまった。こうして、桃太郎の行軍には、もう一匹の同伴者が加わったのである。