救国の桃太郎 第六話

桃太郎の出立を控えた夜、村は異様な熱狂に包まれていた。雷鳴の間近に轟く凄絶な夜だったが、村民らは皆浮かされたように酒を呷り、全身を滝のように流れる雨粒をもいっさい顧みなかった。このような熱狂は革命以来だった――革命当時のさまざまな夢想に反して。

 

否。ひとえに革命は順を追ってなされたから、この晩の興奮は革命を超えていた。彼らが桃太郎が出立を宣言してから、この日でまだ三日だった。渦中の人物は集会場の演壇に上がると、いまだ変声期を迎えぬ声でこう語った――

 

「諸君、我々は危機的状況に晒されている。

 

私は革命こそ経験してはいないが、生まれて間もない頃から、諸君の表情の変遷をこの両目で見てきた。諸君はすでに十分すぎるほどわかっているだろう。革命は諸君に熱狂を齎し、新たな生活への期待を抱かせたが、結局のところ、藁の一本すら諸君に与えることはなかった。

 

現在、オニはこの国のすべてを苦しめている。幸いなことにこの村は無事だが、遠方の友人がいれば、諸君は彼らの忸怩たる思いを聞かされていることだろう。しかし、オニはただ、この危機を象徴するひとつの現象にすぎない」

 

桃太郎の額を雨粒が流れ、両目の確固たる意志を反射してきらめいた。「そうだ! 桃太郎様のいらっしゃる限り、オニなど恐れるに足らぬ!」 集会場の端で酔客が浅はかな叫びを上げ、村民らの両腕の毛を逆立たせた。

 

桃太郎は苦笑し、続けた。「確かに、オニ自体は恐れるには足らぬのかもしらぬ。だから明朝、私は我が身ひとつでオニガシマへと向かう。だが心せよ、たとえすべてのオニが大河の泡沫へと帰ろうが、この国の危機は消えてなくなるわけではない。

 

そのようなことはあり得ないが、万一私が斃れた場合のため、私はここにことばを遺そう。老父母よ、ありがとう。私を拾って、ここまで育ててくれて。赤子の声のする桃は、さぞかし不気味だったろうに。

 

村民らよ、ありがとう。余所者の私を受け入れてくれて。私の尊大な発言が幾人かの気に障ったことは熟知しているし、それこそ当然の反応だろう。諸君の我慢に報じようと必死に生きてきたが、私は応えられただろうか?

 

最後に。この村は素晴らしい村であった。だから私は、たえずこの村の助力を欲しているのだ。明日の朝、出立にあたって、私に黍団子を持たせてほしい。さすれば私は、この国の危機を救うため、村の力を十二分に振るって戦えるであろう」