救国の桃太郎 第五話

幼き桃太郎の尊大な態度は、窮屈な寒村に齎された異様な黒点だった。生誕の経緯も相まって、村民らはこの不遜な少年を畏れ、なるべく触れぬように過ごした。

 

当初は、老夫婦は桃太郎の生まれを隠していた。二人は、川で拾った捨て子だと説明した。しかし生誕の真実が明るみに出るまで、長くはかからなかった。

 

例の愚鈍な釣人の証言や、善良な老夫婦がつける名前にしては「桃太郎」はいささか数奇すぎることも、もちろん理由のひとつではあった。だがそれだけでは、守旧的な村民らをして奇妙な真実を信じさせるに足るものではなかった。村民は愚鈍な釣人よりも善良な老夫婦を信頼したし、老夫婦の名づけに関しても、都会での奇妙な流行の帰結と見做すことが多かった。

 

真実を白日の下に晒したのは、他でもなく、桃太郎本人の証言だった。彼は赤子だったが、人前で言葉を話すのを躊躇しなかった。そのため村民らは彼を、神の化身と見做した。あるとき、ひとりの恐れ知らずの若者が桃太郎に生誕の秘密を尋ねると、桃太郎はただ、桃から生まれたと答えた。

 

桃太郎は傲慢で、不気味だったが、村の生活に困難を齎しはしなかった。桃太郎が生まれて半年後、ある村民が彼に――正確には、彼に化けているはずの神に――黍団子を供そうとしたが、桃太郎は供物などいらぬと断った。一歳にもなると、桃太郎は村を自在に歩き回ったが、することといえば、ただ道行く村民の会話に耳をそばたてるだけだった。村民らは桃太郎に祈ったが、彼はその都度、私はあなた方の願いを叶えるための存在ではないと断った。

 

「私には使命がある」そう桃太郎は折につけ語ったが、その内容は頑なに語らなかった。「いまはまだ明かす時ではない」使命を聞かれると、彼は決まってこう答えた。

 

三歳になると彼は、学校に行きたいと老夫妻にせがんだ。老夫妻は認め、だが村の人が認めるとは限らないと付け加えた。実際のところ、この頃には村の誰もが桃太郎の敬虔な信者だったから、断るような村民は誰一人としていなかった。桃太郎は、彼自身だけのために組まれたカリキュラムを丁重に断わったが、五年で高等教育を終えた。

 

八歳の誕生日に、彼は初めて自分の使命を明かした。彼は卒業に際し、「現世の危機を救うため、私は桃源郷にて生を受けた」と高らかに宣誓した。村民や他の村の生徒は、危機とはオニのことだと解釈した。その当時オニは全国に跋扈し、そして新政府にオニを取り締まるだけの軍備がないことが次第に明るみに出始めていたのだった。

 

革命に誰もが熱狂したのと同様、桃太郎の宣誓にもみな熱狂した。つまるところ、前の革命の熱狂も落ち着き、誰もが新政府の汚点を直視し始めた今、世は次の革命の熱狂に飢えていたのだった。