第十七話

一夜明けると、私の頭にはいくつかのアイデアが整っていた。久々に刺激のある一日を過ごしたせいか、疲れは抜けきらなくても頭脳は明晰だった。

 

壁の向こうの文明と戦って勝つ、そんな手段はもちろん、一夜で思いつけるわけはなかった。ましてや、敵が、壁を越えてものを飛ばせるほどの技術を持っているとあらば。私は古文書の記憶を漁ったが、技術どうしの戦いの記述にはついに思い当たらなかった。

 

だが、だからと言って、できることはあった。この場所には改善できる点が山ほどあった――例えば、見張り。人が槍を抱えて二列で立ち続ける、というのは、侵入者への警戒手段としてあまりにお粗末すぎた。壁の別の場所にも穴が空く可能性を考えれば、一箇所に労力を割きすぎだ。

 

私は杭を、できるだけ等間隔に壁の割れ目に打ち付けた。この場所は、杭やロープには事欠かなかった。訓練施設の子供たち、未来の登攀者たちが、私の作業を手伝ってくれた。幼いながら彼らはこの手の作業に慣れていて、すぐに私はただ指示を出しているだけでよいと気づいた。

 

杭を打つ作業を子供たちに任せて、私は買い出しに出た。いまは攻撃は止まっていたが、念のため一人の青年が付き添ってくれた。彼は訓練の最終クラスに所属するひとりだそうで、宿営地でもひときわ大柄で目立っていた。

 

このような先の見えない状況でも、彼は底なしに明るかった。右も左も分からない私に、宿営地で最初に声をかけてくれたのが彼だった。工場にも図書館でも全く見たことのないほどの暑苦しさに私は困惑したが、決して悪い人ではなかった。欠点と言えば、何をするにも力の加減を知らないことで、「よろしく」と差し出された手を握ると、私の手の骨がバキバキと音を立てた。

 

私たちはそう遠くない部品屋へと向かうと、簡単なセンサーをいくつか購入した。訓練施設に戻ると、私はブザー付きの振動センサーを杭に取り付けた。これで、別の場所からの侵入の予兆には気づくことができる。

 

すでに空いている穴の中にはロープを張り巡らせ、圧力センサーを置いた。センサーをブザーにつなぎ、同時に、ロープを網につないだ。ロープを引くと穴の中に網がかぶさることを確認し、私は満足した。原始的な罠、もはや技術とさえ呼べないような。それでも、大人数で見張り続けるよりははるかにマシに思えた。

 

私を連れてきた彼女の姿が見えず、私は教官に質問してみた。「上で見張りをしている」、そう教官は答えた。「また壁を登ったのですか」と私が聞くと、教官は彼女が壁の内部に梯子を発見したと教えてくれた。「あとで君も登ってみるか?」完全な親切心から教官は言ったが、私は数百メートルを落ちる危険を冒すのはごめんだった。

 

訓練施設の少年が一人、ボトルを数本抱えて壁の穴に向かっていった。見張りがいるのとは別の穴で、向こう側は見えていなかった。どうやらその穴の中に梯子があるようで、上に物資を届けに行くのが彼の仕事なようだった。

 

私は思い立ち、次の配達のときに私に声をかけるように彼に言った。私は再び、例の力の加減を知らない青年に頼んで買い出しに行った。私は足に疲労を感じたが、彼はとことん元気だった。初めて見る部品たちに興奮して商品を壊しまくる彼を横目に、私はウインチ用の滑車のうち、なるべく軽いものを選んだ。

 

訓練施設に戻ると、私は滑車に細めのロープを巻き付けた。重いものを持ち上げるときに、工場で重宝していた機械。今回持ち上げるものは工場でのものよりだいぶ軽いが、代わりに高度ははるかに高い。届け屋の少年が再び来ると、私はその機械を上に持っていくよう頼んだ。二十キロを超えるその機械を持たせるのに抵抗はあった。だが幸いなことに、梯子を何往復もするほうが嫌だという点において、私と彼は同意見だった。

 

突然、壁のブザーが鳴りだした――北から南の順に、少しの間をおいて。教官たちが厳戒態勢に入ったが、何も起こらないうちにブザーは鳴りやんだ。私はセンサーを点検したが問題はなく、攻撃以外の目的のなんらかの振動を感知したと結論付けた。

 

ロープの先がおろされてきた。水のボトルと食料のほかに、私は望遠鏡を入れた籠をくくり付けた。低倍率だが軽い、市販の手持ちのやつを――残念ながら、私の望遠鏡はすこし大きすぎるから。一連の仕事を終えるとすっかり日は暮れていて、私はくたくただった。

 

今日のところ、攻撃の気配はなかった。見張りに出ていた彼女が降りてきて、私たちは一緒に宿営地に向かった。二人とも疲れていて、私たちは一言も交わさなかった。傍らを歩く彼女を見ながら、私はふと、彼女のことをほとんど知らないと気づいた。

 

夕食を摂ると、私はベッドに直行した。疲れていたが、私は眠れなかった。宿営地の固いベッドの上で、私の頭には、消えない思考がぐるぐると渦巻いていた。私は役に立っているだろうか? 私は、ここにいるべきなのだろうか?

 

私の工夫で、確かにここの人たちは動きやすくなるはずだ。その点では、私は役に立った。それに、ここでの仕事は充実していた。技術的には普段よりはるかに簡単な仕事、でも、自分で考えて動く高揚があった。

 

でも、それだけ。

 

私には、勝つための技術が求められていた――だから私は、呼ばれてきた。でも、そんな技術を私は知らない――この世界には、たぶんない。

 

私は両親を思い出した。学者だった母、職人だった父。今日のような工夫を父は誰よりも重視していて、そのために作業員たちから慕われていた。私は父のようでありたいと常々思っていた――でも、私に求められているのは、母の役割。

 

母ならどうするだろうか? 私は考えたが、記憶の中の母は動き出してはくれなかった。私はふと、母はあくまで、作れると思ったものを作っていただけだと気づいた――作らなければいけないものではなく。

 

つまり、私は、母ですらしなかったことをしようとしている。

 

壮大を通り越して、それはもはや馬鹿馬鹿しくさえ思えた。私は途方に暮れた。春の夜に、聞いたことのない虫の声がいつまでも響き渡っていた。