第十一話

大きな石が、アタシたちの頭上に落ち続けていた。

 

訓練施設の屋上。怖い、どうしよう。一発当たったら、終わり。よけなきゃ。でも足は動かなくて、アタシは上半身だけを動かして石の雨から逃げた。案の定、膝に石が当たった。ダメみたい。仮に生き延びたとしても、アタシは歩くこともかなわない。

 

なのにお兄ちゃんは、隣で平然としていて。まるでお兄ちゃんには石は降っていないみたいだった。次の石はお兄ちゃんに当たったかに見えたが、見ると石は消えていた。

 

アタシはぴんときて、お兄ちゃんに手を伸ばした。お兄ちゃんを、アタシの頭の上にかぶせればいい。そうすれば、石は当たらないはず。アタシはお兄ちゃんの腰を掴んで引っ張った。でもどんなに引っ張っても、お兄ちゃんはびくともしなくて。

 

気づくとそこは実家の外壁で、アタシは窓の鉄格子を掴んでいた。アタシの体重を支える格子は今にも外れそうで、でもアタシは上に行かないといけなかった。ゆるんだネジがカタカタと音を立てた。

 

アタシは覚悟を決めて鉄格子を引っ張り、反動で上に飛ぼうとした。格子は外れ、アタシは投げ出された。アタシはどこまでも続くかに思える距離を落ち、アタシは池の中にいた。

 

溺れる。誰か助けて、アタシは叫ぼうとしたが、口からは泡が漏れるだけだった。アタシはもがいたけど、沈み続けた。ダメ、こんな誰にも見つからないところで死んじゃ、ダメ……。

 

……アタシは荒い息で目覚めた。

 

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辺りは、依然として真っ暗だった。あの梯子を降りた後、アタシはもうそれ以上動ける気がしなかった。アタシは床が続いていることだけを確かめると、ここでいったん休もうと考えた。それ以降の記憶はなかった。

 

ここがどこなのかは見当もつかないけど、進むしかない。アタシは壁に手をつけ、方向を失わないよう、壁と平行にまっすぐに進んだ。視覚以外の感覚が研ぎ澄まされ、アタシは埃の臭いを感じた。暗闇にアタシの足音だけが規則的に響いた。響きから察するに、この場所はそう広くはないようだった。

 

アタシは思い立って内壁から手を放し、壁と垂直に進んだ。すり足で、慎重に。下は奈落かもしれないから。触覚を手放すのは心細かったが、ここが地下じゃなくて壁の中なら、すぐにまた反対側の壁に行き当たるはずだ。

 

アタシが再び触覚を取り戻すより先に、足先が宙に浮くのを感じた。アタシはその場にしゃがみ込み、慎重に足元を触った。やはり、地面はないようだった。

 

ふと、アタシの髪が揺れた気がした。風でも吹いているの? 風が吹いているなら、外が近いということだ。アタシはつかの間の期待に感覚を研ぎ澄ませたが、特に風のようなものは感じられなかった。気のせい、かな。

 

アタシは引き返すために真後ろの方向を見積もった。その場で右回りに回ろうとしたその時、今度ははっきりとアタシの頬に風が当たり――突如、アタシの目を閃光が貫いた。

 

「眩しい!」アタシはとっさに腕で目を覆った。暗闇に慣れきった目では、何が起こったのか全く分からなかった。そして考える間もなく、

 

アタシの右足を何かがかすめ、

 

アタシは完全に平衡を失った。

 

あっ。

 

右手が宙を掻いた。左手が何かに当たったが、掴み損ねた。

 

閃光の残像が、アタシの視界をゆっくりと流れた。

 

背中に、風。

 

ああ。

 

お兄ちゃん。

 

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背中に激痛が走った。永遠にも思えたが、落ちていたのは一瞬だった。アタシは立ち上がろうとしたが、とても無理そうだった。鼻に埃が入ってアタシは咳込み、背中が悲鳴を上げた。

 

もはや清々しい気分だった。アタシはその場に両腕を大きく広げ、無防備に寝そべった。

 

「あー」アタシは言葉ではない声を発し、耳を澄ませた。『あー』残響が、ここにはアタシだけしかいないという事実が、面白かった。

 

「おー」『おー』、「うー」『うー』。楽しいな。

「えー」『えー』。ふふ。

「いー」『いー』。

 

『……じゃない?』

 

えっ? 『えっ?』

気のせい? 『気のせい?』

 

『そうと……けどね』ううん、気のせいじゃない。確かに、聞こえた。

『……かなぁ』方向は多分、アタシたちの世界の方。

 

アタシは精一杯の声で叫んだ。「誰かいるの?」背中の痛みに、アタシの声はかすれた。「誰か?」 反応はなかったが、話し声はまだ聞こえ続けていた。『……だけどね』

 

アタシは両手に力を込め、身体を起こした。背中と左肩に激痛が走ったが、今度はアタシは立つことができた。右手を振り回すと、顔の高さに、アタシが落ちた段差があった。

 

アタシは右手で身体を支え、段差の上に戻った。背中は悲鳴を上げていた――おそらく骨が何本か折れていた、だがそんなことを気にしている場合ではなかった。アタシは暗闇を内壁まで走り、大声を上げた。「誰かいるんでしょ! 誰か!」

 

耳を澄ましたが、すでに話し声は止んでいた。誰か。「いるなら返事してよ!」 頼むから、アタシをここから出して。

 

アタシは叫び続けた。全力を込めて。

でもそれ以降、アタシの耳に響くのは、アタシ自身の声だけだった。