2023-06-01から1ヶ月間の記事一覧

厳密性の要求値

わたしが数学畑の人間だからだろうか、小説の文章を読んでいると、ときおり文章表現のあいまいさが気になることがある。たとえば順接でつながっているふたつの文の論理がじつのところまったく飛躍しているとか、主人公の行動の理由の説明がよく読むとあまり…

作業の快適さ

忙しい時期はあと二週間ほどで終わる。学会やらなにやらのイベントをこなし、論文の締切を乗り越えたなら、わたしは晴れて自由の身である。 自由の身と言ったが、べつにいまが特別不自由であるというわけでもない。たしかにやらなければならぬことはそれなり…

壁打ち

文章なるものの性質として、以下のような言及を目にした。 いわく文章とは生来、ほかのだれかに見せるためのものである。それがほとんどどんな目的で書かれているにせよそれは最終的に他者の目を逃れ得ず、したがって筆者はそれを、読者に届けるという明確な…

引き延ばし

書くことがないのに話をふくらませなければならないなら、筆者はどうすればいいか。もちろんペンを置き、紙を破り捨てるべきである。そしてひとしきりストレスを発散したならば深呼吸して、できませんでしたと素直に謝るべきである。 そうできない場合はどう…

焦燥

諸々の締切まで実質的には一週間ほどになったが、やるべき作業はまだ残っている。締切前は基本的に暇だとこの前ここに書いた気がするが、あれはどうやら嘘なようだ。余裕をぶっこいて舐めたことを言って、仕事のできる人間のふりをしてすみませんでした。締…

意味のない音声 ②

百人一首が揃いも揃って恋愛の歌ばかりであるのと同じように、歌手とは全員例外なく、とんでもない恋愛脳の持ち主だとわたしは素朴に信じていた。そういう恋愛脳から出力された歌を前にすると、そんな浮ついた感情を人前で読み上げて恥ずかしくないのか、と…

意味のない音声 ①

音楽について、最近になってようやく気付いたことがある。音楽は、ことばであるということだ。 深い意味ではない。メロディーやリズムの話す声が聞こえるようになったとか、ハーモニーが言語的調和であると感じられるようになったとか、そういうスピリチュア…

鉄道の収束 ①

鉄道網において、東京とはひどく不便なところである。 そんなことはありえない、といまにもツッコミの嵐が飛んできそうだ。なにが不便だ、お前は田舎の鉄道を舐めているとか言われれば都市郊外育ちのわたしはごめんなさいと言って謝るしかないし、東京が不便…

主食

そういえば「主食」とは、なにを指しているのかいまいちよく分からない概念である。日本人の主食は基本的にコメであると言われており、それに異を唱える気はないけれども、それがなぜ「主」なのかと言われればあまりうまくは答えられない。ウィキペディアを…

些細な変更点

実は形式の面で少しだけ、この日記の文章はしばらく前から変わっている。とくに断って始めたことでもないからだれも気づいていないだろうし、些細なことだから気づくだけ時間の無駄なのだが、とにかく毎回、字数にしてほんの数文字ぶんだけの変更点がある。…

メロディー記憶

最近指摘されて気づいたことだが、わたしにはどうやら、メロディーを記憶する能力がそれなりにあるらしい。ひとの顔や目的地への経路はまるで覚えられないのだから純粋な記憶力がいいわけではなく、金を出してイアホンを買ったことがないほど音楽に対する興…

非オタク性

インターネットでもてはやされる物語の類型として、ひとつのことを突き詰めた人間が成功する話、というのがある。主人公はけっして輝かしくない経歴の持ち主であり、運動においても勉強においてもとくに評価されることのなかった少年時代から始まる人生は、…

加法定理

物理学とどうにも波長が合わない理由は、わたしなりに結構いろいろ考えてきた。昨日挙げたのは物理が公理的でないということと物理的対象の定義に頓着しないということの二点だったが、それだけの説明ではまだいまいち、しっくりこない。 物理帝国主義者と呼…

波長が合わない

数学の人間は物理も得意だと聞いていた学部生時代、教養の物理の授業とは予想に反し、なんだかまったくよく分からなかった。分からなかったと言えどもしょせん学部の授業であり、きわめて基礎的な内容をやっていたわけだから、それはもう、波長が合わなかっ…

積分順序論

物理学の人間が数式を「物理的に」扱うと、数学の人間がその場にぬっと湧いて出て、その積分と極限はどうして入れ替えられるんですか、とか言って枝葉の部分にまで過剰な厳密さを要求するせいで、やりたかった本質的な話がいっこうに進まない。数学と物理学…

絵と御神体

自分の嗜好を満足させてくれる絵がないから、絵を勉強して自給自足できるようにした。その手の話はつい数年前までれっきとした武勇伝であり、かれらはおのれの欲望にとことんまで忠実に従う実行力と強い意志のある人間として、完全なる崇敬の対象であった。 …

地下鉄と並行世界

地下鉄ってパラレルワールドと相性いいと思うんですよ。昔からずっとあるものなのに、どこか現実と切り離されたような、別世界感みたいなのがあると思うんですよ。なにもなかった地下に細長い空間を作れて、太陽にもその土地の歴史にも縛られずにいかように…

容姿の語彙

顔の見えないコミュニケーションに慣れ切ったせいかは知らないが、ひとの容姿というもののもたらす情報にわたしはずいぶん無頓着である。日頃の情報伝達はボイスチャットで完全に事足りているし、オンラインミーティングに顔を映すのだって、単に対面時代の…

作業用 BGM

作業に集中するための手法として、背景で音楽を流すというものがあるらしいと聞いて知ってはいたけれど、これまでは真面目に実践してみようとしたことはなかった。言わずもがな、そもそも音楽を聴く習慣がなかったからである。 なんの巡りあわせかは知らない…

福笑い

今に始まった話ではないし、わたしだけが抱えている問題でもないのだが、ひとの顔が全然覚えられない。覚えられないと言うとなんだかまるで覚えようという努力をしてはいるような印象を与えてしまうが、もちろん努力なんてしていない。 できないことはできな…

風呂場の思考

風呂の中でネタを思いついたつもりだったのだが、ツイッターを見ているうちに忘れてしまった。思い出そうとそこら辺を歩き回ってはみたけれど、直前に見たツイートがずっと頭をぐるぐるしていて、とうてい思い出せそうにない。残念だが、まあ仕方がない。よ…

傲慢さの欠落

絵描きたちが画像生成 AI を目の敵にし始めてから結構な日が経つけれど、そういえばかれらの楽観的な姿というか、いわば強者の余裕のようなものを見せている様子を、わたしはついに見たことがない。 そりゃそうだろう、と普通は思うだろう。楽観的もなにも A…

音楽を聴く習慣

流行に頓着しないのは昔からなようで、中高生のころまわりのほぼ全員が持っていた音楽再生機器を、わたしは持っていなかった。べつに羨ましいとは思わなかったし、聴きたいものもなかったから持っていたとしてきっとゲーム専用機になるか、あるいは家で文鎮…

審美眼 ②

そこでおそらく初めて、他人の目、というものが必要になってくる。 というのも、自分で作ったものの良し悪しは自分では分からないからだ。これはきっとだれもに経験があることだろうと思うけれど、目の前のなにかを受けてまったく自然に口に出たことばがなぜ…

審美眼 ①

どう書いてもくだらないテーマについて書き、良い文章にならなかったそれをうじうじと推敲して、一向にまともにならないそれを見て初めてテーマ選定が悪かったのだと気づくような、そういう回り道を笑って許していられるほど、現代人は時間に甘くはない。わ…

良さのジレンマ

「良い」作品とはなにか。ひとことでそれに答えられるのならだれも苦労しないけれど、自分が作品を受け取る側であれば、話は簡単である。 「良い」作品とはわたしが摂取して、良かったと思える作品である。良かった、には楽しかっただとか爆笑しただとか悲し…

暇と罪

やることがたくさんあるというのは結構いいことで、たとえほとんどすべてのことにまったくやる気が出なかったとしても、唯一まだやってもいいかなと思える作業を見つけてそれに取り掛かれば、残りのタスクは確実に減る。その間ほかのものはまったく無視され…

推敲

推敲とは難儀なことばである。字面を見てもなんだかよく分からないそのことばは中国の故事成語に由来していて、じゃあその内容はと聞くとテレビの難問クイズみたいで、要するに、知らなくてもなにも困らない雑学である。とはいえわたしたちはみな例外なく、…

諦めが早い

書くことが思いつかないと思って過去を振り返ってみれば、一時期、狂ったように生成 AI のことばかり書き続けていた時期があったことを思い出した。あの頃の情熱と執着がどこから来ていたのかは数ヶ月の経ったいまではもう思い出せないけれど、そういうもの…

締切の自由

遠くも近くもない締切を前にして、忙しい忙しいと言っている暇があったら、さっさと仕事に手を付けるべきだ。分かっちゃいるけどそうはできないことの代表格として語られるそれは、そうと分かっているので、普通にできる。 締切のない時間を前にして、暇だ暇…