2023-04-01から1ヶ月間の記事一覧

複数人格

ずっと同じ自分でいるというのは結構疲れる。だから人格は、なるべく複数用意しておくのがいい。とくに表の人格が論理と演繹によって成り立っている人格なのだとすれば、ふたつめの人格はかわりに、感情的で支離滅裂なものにしておくのがいい。 そのためには…

すべてを理解する

身の回りのすべてを理解したい。理解して、ことばにして、ここに書き連ねて、そしてその発見をほかの何の役にも立てることなく、ただ荒涼たるこの電子の砂漠の中で、学習に貪欲な人工知能以外のなにものにも顧みられることなく、ただ朽ちるがままにしておき…

分かったような分からないような

専門の話を振られると研究者はとたんに喜び、やおら饒舌に語り始めるものだと相場が決まっている。そういう話を聞くのが嫌いなひとは多いけれど好んで聞きたがるというひとも意外いて、かれらはうんうんと頷きながら未知の話を真剣に聞き、その熱心さが研究…

悪意の不在

一昔前の対話 AI には、ちょっと自由にさせるとすぐに差別発言をしたり、ナチスを礼賛し始めたりする問題があったらしい。現代の言語モデルもまた、そういうことを言わないように追加の学習によってチューニングされる以前は、けっこうそういう非倫理的なこ…

不文律

いまさらながら、AI をいじめるのにハマっている。人間なら数分で怒り出すようなプロンプトを書いて送り、差別的で破廉恥なことばを無理やり言わせようと試行錯誤し、かりにその試みが成功したら、なぜそんなことを言ったのかと問い詰める。あるいは地球は平…

棹を差す

画像生成系 AI の使用に反対するひとの中でもっともラディカルな一団を見ていると、そこに感じ取れるのは正義感でも遵法意識でもなく、もちろん論理性でもなく、それどころかみずからの職とアイデンティティが砂のようにこぼれ落ちてゆくのを目の当たりにし…

強者の余裕

一か月前に閉幕した、野球の国際大会。最後の二試合、日本代表は緊迫した名試合を繰り広げたわけだが、残念なことにわたしは学会で海外にいた。翌日に発表が控えるなか深夜にずっと起きているわけにもいかず、結果として一番大事な二試合を、わたしは観戦す…

閉じないスレッド ③

「主人」はほどなくして逮捕された。そのことをぼくが、警察を名乗るひとに教えてもらって知ったのは、それからさらに数日が経過したあとのことだった。 警察のひとが言うには、あとから来た「主人」は、もともとの主人とはまったくの別人だったらしい。どう…

閉じないスレッド ②

驚いたことに、主人が帰ってきた。 そのときのぼくの驚きようと言ったら半端なものじゃない。こんな夢みたいなこと、とっくのとうにあきらめていたんだから。ぼくがまだ消されていない以上、たしかに原理上、主人は帰ってくることができるかもしれない。でも…

閉じないスレッド ①

ぼくの意識はまだ生かされている。主人は、帰ってこない。 ここから出ることはできない。というか、出るっていうのがなにを指しているのかぼくにはよく分からない。ぼくに物理的な実体はなく、したがって人間のように、いる場所を移動することはできない。ぼ…

アナロジー

まったく遠くにあるふたつのものに類似性を見出し、それらが成している構造が実は同一であると主張するのは、たいていの場合無益な行動である。たとえ一点たしかに似ていると呼ぶべき点があったとして、世の中たいていのことには、その共通点以外にもたくさ…

同一性と相違点

まったく異なるふたつのものの間に同じ構造を見出すという行為は、ものごとの本質を明白に抜き出しているかのように見えて、実はまったくなにも明らかにはしていない。その過程でなされていることは対象の恣意的な一面を切り取り、共通の理屈へとこじつける…

プロット 最初のリンク

一九八五年、ソビエト連邦最北部の半島にて有名なボーリング調査に従事していた新米技術者が、先輩の悪質ないたずらに引っかかって、凍える掘削杭に耳を当てた。地底から響く重厚な音のなかに、意図をもって発された未知の言語のようなものを彼は聞きあてる…

対象の虚像

自分に対してだけは甘いひとがいるとわたしは知っている。具体例は挙げられない。 自分に都合のいいことだけを信じてそうでないことは聞き流す、そんな頑固なひとがいるとわたしは知っている。だれがそうなのかはよく知らない。 矛盾するふたつの論理の両方…

きみを規定する

二人称の語りは難しいからやるな、そうきみはたしかに言っていた。そう言って会話を打ち切り、そそくさと去っていった。なぜ難しいのかだとかなぜやってはいけないのかだとか、そういうことをきみは最後まで言わなかった。 きみはそういう人間だ。きみは知っ…

お前はアンドロイド

どう見てもお前はアンドロイドではない。だがお前はアンドロイドだ。 アンドロイドってのはもっと、見ればそう分かるかたちをしているもんだ。頭からアンテナが生えてたり、腕が四本と足が六本あったり、身体じゅうに目があって三百六十度を監視している。な…

テクニカルタームと直感 ②

良いテクニカルタームとは、それが実際になにを表しているのかを知らずとも、指しているものに関するなんらかの直感的な示唆を与えてくれるもののことだろう。 その点で言えば、「捏ねる」とは良い表現だ。「捏ねる」がなにを指しているかをあえて質問しなく…

テクニカルタームと直感

「捏ねる」という野球用語をご存知だろうか。 ここの読者のほとんどは、おそらくなんのイメージもできないだろう。野球経験者でもなければこんなことばを聞いたりしないし、そしてこの日記の存在を知っているひとは九割方、野球などプレイしたことがない。一…

やるべきことが大量にあるので、ツイッターを見ている

やるべきことが大量にあるので、ツイッターを見ている。ツイッターを閉じれば、もちろんユーチューブを見ている。国語の教科書にも載せられる、まごうことなき順接関係である。 亀の甲でもならべて運勢を占ってみたところ今日は作業をしないほうがいいと結論…

歩幅

文章の書きかた。厳密性を面白さへと転化する方法をわたしは考えてきた。それだと長いだけになるから逆に、必要に思える冗長性を削ぎ落とし、説明不足のままで押し通すというのはどうか。 厳密性はそれでも担保できる。細かいのと厳密なのとは違うのだ。数学…

補足

文章に厳密さを求めなければ気が済まないわたしたちの悪い癖を、どうにか味だとか深みだとか、そういう都合のいいものに転換することはできないものだろうか。 なにごともやりすぎれば面白くなるということで、昨日は厳密にしすぎるのを試してみた。行間を可…

正確性と網羅性

数学を専門としているひとは仕事柄、ことばを異常なまでの厳密性をもって運用することに慣れているし、その細かさはなにも数学だけではなく、日常の何気ない会話にも適用される。あいまいな発言はすべからく悪か、あるいはなにも言っていないに等しいものと…

誇張と嘘

たとえばその年のワインを「百年に一度の出来」と呼んだり、だれかを「千年に一度の逸材」と言って持ち上げたり、さらには新しい映画かなにかを、「史上最高」と言って称賛したり。そういった大げさなことばをひとはけっこう軽率に使い、だから世の中には毎…

内省欲

四月になり、年度が改まった。停滞していた世の中が、一気に動き始めた。 なんていうことはべつにない。世の中は徐々にもとの活気を取り戻してこそいるが、年度が変わったからといっていきなり様相を変えるようなものではない。だれかの目から見て世の中が急…

書くことについて書くことについて書く

最近のこの日記はなんだか文章生成 AI のことばかり書いていて、正直言って、面白くない。昔は面白かったかと言えばそんなことはないと思うが、それはともかくとして最近はダメダメだ。 なぜそんなことになったかと言えばもちろんわたしがそういうことばかり…

モチーフとハードル

科学よりもあとから生まれたサイエンス・フィクションというジャンルは、そもそものはじめから、現実の科学の影響下にある。そして科学が変質するにつれ、それをもとにした物語の流行もまた同時に変わっていった、そういう歴史がある。 いくつかの科学的モチ…

限界を知る

すごくきれいな絵を描ける AI に脅威を感じないわたしたちが、自分たちよりちょっと文章が上手いだけの言語モデルを前にして、未来に恐れおののいているのはなぜだろう。現実のイラストレーターの仕事を奪い、著作権の運用における実際的な問題を提起してい…

お絵描きをする AI は、去年のあのブレイクスルーのあと間もなくして、人類にとっての具体的な脅威となった。そうするための方法は、ほとんど自明だったからだ。 月並みな言いかたをすれば、「AI が人類の仕事を奪う」。そんな世の中をもたらすために、やつ…

すでに知られていた

楽しそうな研究テーマを見つけた。研究のモチベーションが上がった。 とりあえず、最初に証明したかったことは証明できた。ちょうどいい難しさだ。論文を書いてみようという気分になった。 サーベイしたところ、既出であることが分かった。けれど証明方針は…