2022-08-01から1ヶ月間の記事一覧

技術の禁止カード論争 ②

いまの AI イラストレーターを取り巻く状況はまさしくそれだろう。AI が出力したイラストが跋扈する時代、それらのサービスは具体的な人間の権利を侵害しそうな「気がする」。それでどんな仕事が人間から奪われるのかは分からないが、とにかく奪われそうな「…

技術の禁止カード論争 ①

カードゲームにはよく、なんだかすごく悪用できそうなカードが現れる。悪用というのが具体的になにを指しているのかはまちまちだが、とにかく正規のコストを踏み倒したり、盤面を無視してそのままゲームに勝ってしまったりとまあ、そういうことができそうな…

マイナスサムゲーム

明るい未来とか形容されるものは、きっとだれかの屍の上に成り立っている。 現代とは末法の世だとわたしたちは思っている。マクロな世の中は確実に滅びに向かっているとみな察していて、最後のときがいつになるかは分からないにせよ、それが遠くない将来に訪…

不気味な単純さの解析

人間という対象が面白くありつづけられる理由が、人間精神の複雑性にあることは言うまでもない。ときと場合によってさまざまな異なる感情を持つ人間は、そのときどきによってさまざまな行動をして、そのいくつかがひとを驚かせる。いくらそのひとのことを理…

バカの書いた人間

人間についてなにか一般的なことを言うのが大好きなわたしたちは、とにかくひとをカテゴライズして、ステレオタイプに当てはめたがる。いくつかのカテゴリーの人々は互いに仲良くするものと相場が決まっているし、そして特定のふたつのカテゴリーの人間同士…

I can't English.

太郎は激怒した。必ず、かの英語中心主義を除かねばならぬと決意した。太郎には英語がわからぬ。太郎は、日本人である。頭を下げ、ゼロリスクを信仰して暮してきた。けれども英語に対しては、人一倍に敏感であった…… ……と、まあいろいろあって、太郎はアメリ…

催眠受験 ②

大学受験用の催眠は、あくまで脳に偽りの経験の記憶を植え付けるだけに過ぎない。もともとあった記憶を改竄したり、催眠を受けたという事実そのものの記憶を奪ったりといった、不可逆な操作をすることはない。もしそうなら、こんな技術が黙認されているはず…

催眠受験 ①

第一志望の大学から合格通知が届いた。 狭苦しい部屋の薄汚れたベッドの上で俺はガッツポーズをして、破れたシーツに背中から倒れ込む。呼吸と脈拍が早まり、綿埃を吸い込んだ汗が額に滲む。空っぽの本棚に張った蜘蛛の巣の残骸が、切れかけの蛍光灯を反射し…

ルールへのリスペクト、換言、権威主義

科学者とはとにかく、なんだってルールを決めなければ気が済まない生き物だ。科学の信頼性のために必要不可欠なことや彼らがそう信じ込んでいることについてはもちろん、やれ引用の書き方はこうだとかこの事例は何々の研究倫理に違反しているだとか、偏執癖…

針先の向こうの夢

技術というヴェールは広漠として、とらえどころのない閉塞感でわたしたちを包んでいる。ひとが到達できる限界がどこにありそしてどのようにひとを押し返すのかを知ろうとわたしたちはもがき、けれどその両手はつねに空を切る。その緞帳はとてつもなく細かな…

近未来の粗悪な模倣品

近未来を感じさせる技術とは、えてして不完全なものだ。それらはいま現在はたいして使い物にはならず、とても限られた用途にしか使われていないけれど、発展した先にある未来には大きな期待を寄せられている。不完全さを克服したそれらの技術が、世界を自由…

不完全への期待感

新しい技術の存在を知り、それでいったいどんなことができるのかとあれこれ試している時間、わたしたちは未知の世界に心を踊らせている。技術それじたいはすでに実現されているものではあるけれどその使い方のほうは未発達だから、競うようにわたしたちは面…

作られた笑い

笑いはタイミングが勝負だ。正しいタイミングで発されたジョークはそれがいかに陳腐だろうが面白いものだし、逆にタイミングを間違えれば、漫才大会の優勝ネタだって全然つまらなくなる。ひとを笑わせるために有効なのは入念に準備されたネタではなく、むし…

二次元美少女ヴィーガンポスター

ヴィーガンとかその手の思想が二次元美少女のアイコンを掲げているところを、そういえばわたしは見たことがない。 この文を読んだあなたは、わたしの頭がおかしくなったように思っているかもしれない。そんなことあるわけないじゃないかと言って笑うかもしれ…

読む速度

文章を書く速度は、この日記を続けることでだいぶ改善したように思う。最初のうちは文章をひねり出すのに四苦八苦して平気で二時間も三時間もかけていたのに、今ではだいたい、三十分くらいで書き終わる。それでいて文章が下手になったとも内容の質が落ちた…

正義の暴力を礼賛する

刑罰とはまぎれもない、体制による弱者への暴力だ。刑務所の中では文字通り、抵抗する能力を持たない人間を監禁し、自由と人権とを長きにわたって奪っている。弱きものをそのように苛め抜くのはまごうこと無き悪であって、どんな倫理を用いても肯定できるよ…

娑婆への倫理

刑罰とは文字通り、体制による暴力行為である。そこで行われていることはれっきとした人権の制限であり、体制はひとを捕まえ、行動の自由を奪う。もっとも悪いケースでは、長期間にわたるかもしれない監禁行為ののちに、体制みずからの手でそのひとを殺す。…

書き方の厳密さ

ひとに読ませる文章とは、何度も練り直されて世に出るものだ。ああでもないこうでもないと文章を校正してだんだんと改善していく過程には、最初に書くときとはまた違った苦しさがあり、喜びがある。 この日記は残念ながらそうではないが、そういう文章だって…

非常が日常になる日

現実世界を題材にしたフィクションでは、現実との整合性が課題のひとつになる。物語の信頼性を保証するためには現実らしさが必要で、そして現実らしさを出すためにはまず、現実に違反してはならないのだ。現代の特定の地域を舞台としているのならば、特段の…

永遠の余韻の中で、わたしたちは耐える

例の感染症が市中に現れてから二年半が経った。 あの春にがらりと変えられた多くの物事は、まだその余韻を引きずったままだ。アクリル板、消毒液、そして非接触型の体温計などはまだ、街じゅうのいたるところで見つけることができる。どれも三年前には、どこ…

揺るがされた正統性の記憶

従来の携帯電話がだんだんと過去のものになり、スマートフォンが社会に浸透していっていたあの時期、それを象徴するような出来事があった。あるときを境に、テレビドラマの登場人物たちが一斉にスマートフォンを持ち始めたのだ。 ガラケーとの呼び名がすっか…

割り切りと喪失

理論の研究者なら、研究対象をどこまでも深く掘り下げねばならない。目指すべきは深遠、それも世界でたったひとり、自分だけが到達しうるだろう場所だ。ときに先人の力を借り、ときに自分の脳味噌を使いながら、手探りで進み続けた先の孤独。その孤独こそが…

ものとことばの絶滅過程

計算するに、あれは十年くらいまえのことだった。当時は単に「ケータイ」と呼ばれていたボタン付きの携帯電話は、その栄華の最終局面を迎えていた。オンラインゲームをはじめとしたケータイ上でのあらゆるサービスは、技術とはつねにそうであるようにもちろ…

情景描写の余白性

文章の練習としてわたしは日記を書いているけれど、なかなかそれだけでは上手くはならない。日記に書く文章の形式は思ったより偏っていて、いざ真面目に文章を書こうと思うと、これまで真面目に向き合ってこなかった領域の存在に気づいてしまう。その領域は…

人間への期待

もっとも広い意味で AI を捉えるなら、世の中はすでに AI であふれかえっている。人間の代わりに現代の機械は色々なことを考えてくれるし、そしてそれは実際に役に立っている。例を挙げれば、乗換案内は AI だ。自動翻訳も間違いなく AI だし、それが人間の…

残らない文章の物量

文章の練習のつもりで、わたしはこの日記を書いている。毎日書いているのはとにかく、量を書けるようになるためだ。それほど気合を入れて書いているわけではないから、おそらく質はそんなに良くない。けれど質というものはよく、量をこなした後からついてく…

強きと弱きの挫き方

ひとが傷つけられる描写には二種類ある。強きものが傷つく描写と、弱きものが傷つく描写だ。 強きものは強きものだから、生半可な暴力では傷つけられない。簡単に傷つけられてしまっては、強さのイメージまでも一緒に傷ついてしまうのだ。従って強い人間が傷…

解さないことを解す

わたしには美術がわからない。音楽もわからないし、工芸もわからない。この絵がいいとかこの曲がいいとか誰かが言うのを聞いて、わたしはなるほど、そのひとはこれをいいと思っているのか、と思う。世間一般的に良いとされている芸術を見て、わたしは「良い…

読解力の欠如と、自動生成の浸透

文章をきちんと読めない人間が、世の中には想像よりはるかにたくさんいる――という言説は、ここ十年ほどで急激に、広く世の中に浸透していった考え方だろう。その時期に青年期を過ごしたわたしにとって、それは社会を見る方法に大きな影響を与えた考え方だっ…

節穴に祝福を

たとえばどこかの性格の悪い蒐集家が、絵の描かれた画用紙の束を用意したとしよう。一枚を除くすべては取るに足らない作品で、美術学校の平均的な学生とか、無名のアマチュア絵描きとかによって描かれたものだ。それらにただの紙以上の価値はなく、誰かの家…