2021-09-01から1ヶ月間の記事一覧
世界というおびただしさの前では、わたし個人はちっぽけだ。世界の諸問題に関して、わたしにはいくつも思うところがあるが、その思いををいかに大声で叫ぼうが、わたしの声が実際に世界を変えることはない。 そしてだからこそ、わたしの見解は自由だ。世界へ…
世の中にはたくさんのひとがいて、それぞれみな異なる思想を持っている。政治や経済、大学受験の勉強方法からプロ野球の采配に至るまで、まったくおなじ思想のひとは二人と存在しないだろう。 そして、世の思想とは、個々人の思想の莫大な寄せ集めである。全…
およそ世の中には、あらゆる意見の対立がある。財務政策の是非から自由と人権の関係、地球環境から教育問題に至るまで、そのレパートリーは多岐にわたる。 だがその対立の大半は、わたし個人にはどうしようもない。わたしがどれほど強烈な行動をとろうが、そ…
「虚数は存在しない」――それは、現世にはびこる数学批判の典型例だ。虚数よりも難しい数学を知らないひとびとの、すくない知識の総動員だ。だからこそそのあとには、高確率でこんなことばが続く――「存在しないものをいくら考察したところで、そんな机上の空…
例の短編を書き終わってからというもの、わたしは執筆について思ったところを書き続けてきた。もう書き上げてから五日目だし、そろそろこの話は終わりにしたいのだが、なかなかそうもいかないようだ。それを証拠に、昨日だってわたしは、もう短編の話からは…
このまえわたしははじめて、ひとつの短編を完結させた。それはわたしにとって、すばらしく新鮮な経験だった。だからこそわたしは得意になって、そのあと三日にわたって、短編を書くとはどういうことだったのか語り続けてきた。 だが所詮、わたしは短編一本を…
ここ二日、わたしは短編を書くことについて書いてきた。執筆という活動についてはまだまだ書きたいことがあるので、今日もその話をすることにしよう。もう飽きたという方はご容赦願いたい――もっとも、そんなひとはタイトルの時点で、すでにこの日記など読ん…
一昨日まで十一日間にわたって、わたしはわたしの妄想を、短編小説のかたちにまとめ上げてきた。よい作品に仕上がったのかは読者のみぞ知るが、作者としてはすくなくとも、おおきな挫折も設定上の矛盾もなく、当初の予定地点にまでたどり着けたとは思ってい…
昨日まで十一日間にわたって、わたしはひとつの短編小説の執筆を続けてきた。わたしが書きたかった情景がうまく伝えられたのかは分からないが、とりあえずは完結したということで、まずはひとつ満足している。 発端は十一日前、わたしに訪れた妄想である。そ…
三日続いた雨が止み、くっきりとした秋の日差しが広場の芝生を淡く照らしていた。広場にはチェルーダの軍が並んでいて、地面の緑が四色の制服にさらなる色彩を加えていた。 広場の前方には、チェルーダでいちばん高い塔がそびえていた。その塔のライトは昼で…
オムニカはその場にしゃがみこむと、破れたドレスを腰のところで切った。片足だけを露出したその姿は、不格好でもあり、だがそれでいて妖艶でもあった。 むき出しの左足のストレージから、オムニカは黒い箱を取り出した。箱は手のひらほどの直方体の機械で、…
ヴァーラは両足のエンジンを噴射し、オムニカの胴体めがけて飛び掛かった。オムニカがわずかに避けると、狙いを外した突進はその脇腹をかすめた。漆黒のドレスが鋭く裂け、灰白色のメッキが鈍い光を放った。 「なにをする気?」 オムニカは言うなり、ヴァー…
「チェルーダを守り続けた《少女》の軍が、こんなにもたくさん待機しているのよ」 そう言い残すと、オムニカはヴァーラに背を向けて窓へと歩いた。足取りに揺れるドレスの裾ははかなげで、そしてだからこそ、オムニカの勝利を優雅に示していた。オムニカの俯…
ヴァーラが目覚めると、そこはまだ《チェルーダの心臓》の中だった。最初に視界に映ったのは、真っ黒なドレスの裾が、どこからか不思議な力を受けてたえずはためき続けている姿だった。そのドレスの主は、顔を見るまでもなく明らかだった。 つぎに目に入った…
ほどなくして、軍は目標にたどりついた。尖塔のライトが眩しく光り、ヴァーラの勝利と洋々たる前途に絢爛たる祝福を与えていた。 「勝利の塔」と名付けられたその塔は、チェルーダでいちばん高く、いちばんきらびやかで、そしてヴァーラがいちばん好きな塔だ…
迅速に、かつ平和裏に。 ヴァーラの軍は、恐るべき速度でチェルーダの街を進んでいった。それはまるで、不可視化したヴァーラが、ニーグダの無の荒野を最高速で監視して回る速度にも似ていた。ある意味では、ロバーキ最速の自走機械が、街の防壁に向かって一…
無謀な戦いだとはわかっていた。 少なく見積もって、敵は三万。それに加えて、チェルーダの要塞がごとき強固な防御システム。ヴァーラが追い出されて以降、チェルーダに大きな攻撃は来ていないから、おそらくその防御システムはそっくりそのまま残っている。…
ナーダの首が、目の前に浮かんでいた。 新米の《少女》の、哀れな残骸が。 その残骸のどす黒い目には、いつもの燃えるような覇気はなく。 その残骸の首元からは、焼け焦げた無数の配線が絡まり合っていて。 配線をただそうと、ヴァーラはそのまっ茶色の一本…
「ヴァーラさん、どうしてあんなことをしたんです!」 真っ赤な目を憤怒に燃やし、ナーダは先輩の少女を真っ向から責め立てた。まるでヴァーラの軍を焼き尽くさんとばかりに、その燃え立つ声は殺気に満ちていた。 「これが最良の作戦だからよ」ナーダの赤い…
ニーグダの荒野が、夕焼けに赤く染まった。 カラスの遠い狡猾な声が、無機質なスクラップの山にこだました。 繊維のかけらが微風に舞い、廃墟の鉄骨にかかって滑り落ちた。 いつもどおり、荒野は荒野だった。普段とちがうことは、なにもなかった。だからもし…
ふわふわ。ぽっかり。ぴりり。ふふふ。 わたしは、ぴりりを、食べる。 わたしは、ぴりりを、食べつづける。 わたしはまた、ぴりりを食べる。 ―――――――――――――――――――――――――――――― わたしは、ぴりりを、食べている。 わたしは、ふたたび、ぴりりを、食べている。 …
ん。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ん。 わたしは、めざめた。 ん。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ん。ん。 わたしは、めざめた。めざめた。 ん。めざめた。 ん。ん。 ん。 ―――――――――――――――――――――――――――――― ん。んん。んん。 わたしは、めざめた。 わ…
およそ物語には起承転結があり、どの部分もそれぞれに固有の役割を持っている。作者は読者に、最初の「起」で世界の姿を、「承」ではその世界のうえで、物語がどう進んでいくのかを伝えることになる。「転」で物語は急転換し、そして最後の「結」で、事件が…
わたしたちは時折、なにかの核心を突いたことばに出会うことがある。それは偉人の名言かもしれないし、酒の席での同僚のことばかもしれないし、あるいはたまたま流れてきたツイートかもしれない。とにかくそんなことばに出会ったなら、わたしたちは目の醒め…
「天才とは、1% の才能と 99 % の努力である」たしかこれは、トーマス・エジソンのことばだったか。その数字の根拠については定かではないが、このことばの解釈は簡単だ。すなわち、才能を持つものが努力してはじめて、おおきな何かを成すことができる。 エ…
世の中には、常識的な感情というものがある。それは明文化された規則ではないにせよ、ひじょうに多くの状況で、わたしに共感を要求してくる。曰く、人間の赤ん坊は無条件にかわいい。地球環境の変化は悪いことだ。ある研究はすばらしく、ある研究はくだらな…
昨日崩した体調は、一日寝たらだいたい治った。いまは少なくとも、鼻水が無尽蔵に流れ出もしなければ、思考がイって素っ頓狂な文章を書きはじめたりもしていない。ただ寝すぎた時の倦怠感と、あとは体温の調整に身体が失敗し続けているという実感があるのみ…
あまりにも急な秋の訪れに、近所の蝉たちは即座に全滅したようですが、人間のみなさまはおかわりなくお過ごしでしょうか。わたしは、しっかりと体調を崩しました。身体を流れる汗水を恐れてつけっぱなしにした冷房が、いまはわたしの鼻の孔から、絶え間なく…
あたらしくなにかをはじめるとき、ひとはだれでも素人だ。はじめて学校に行き、授業とは何かを知ったとき。あるいははじめてスポーツクラブに行き、あらぬところが筋肉痛になったとき。そんなときわたしたちは、見たことのない景色を垣間見る。この意味で、…
科学の理論はしばしば、なにか巨大で尖ったものにたとえられる。研究を積み上げるいとなみとみなすのならば、科学は天を衝く山だ。はんたいに、研究を地面を掘るいとなみとみなすのならば、科学は地面にあけられた、油汗の吹き出すくらいに深い竪穴だ。 それ…