2021-05-01から1ヶ月間の記事一覧

ログインボーナス

さて、お分かりの通り、最近はまた日記のネタに困っている。前回困ったときのように小説を書くわけにもいかないのは、何を隠そう、小説のネタにも困っているからだ。 当たり前だが、物語は勝手にはできてこない。そして、考えていないから、進まない。それな…

幻影の消えた日

たまには日記らしい導入も使ってみることにしよう。今日は久々にプログラミングコンテストに参加した。 練習をやめて久しいから、もちろん順位は芳しくない。だが同時に、衰えを実感させられることもなかった。昔の通りに参加して、ただ、負けた。 負けたの…

おやすみ

書くことが尽きてきたので、今日はお休みにする。 生きることと書くことは、必ずしも両立しない。書けないことばかりを考える日もある。 ここ数日書いてきたように、書けることを、無意識のうちに思いつくとは期待できない。書くためには考える必要があり、…

怠惰な私のバリアフリー

世の中は、読み切る気のしない文章であふれかえっている。 文章を前にして、人は様々な要因で挫折する。例えば、長すぎる。主題に興味がない。話が曖昧でよくわからない。不必要に漢語の多い文体に、まるで自分を見ているかのような気恥ずかしさを覚える。 …

スロープを書く

文章を書くときは、読み手は馬鹿だと思っておくくらいがちょうどいい。 文章は、書き手の論理で進む。読み手は困ったとき、読む速度を変えてみたり、気晴らしに紅茶を淹れてみたり、諦めてただ reject と送りつけたりはできる。だが断じて、読み手の疑問に合…

箱庭を模造する

思想が土地なら、書くのは箱庭を作る作業だ。 学問ほどではないにせよ、人の考えは積み重ね式だ。今日の思考には、以前の思考に基づく前提がある。例えば、今日の前提はこうだ――書くとは、結論を出す作業。 言葉は、とりわけ短い言葉は、思考のデフォルメだ…

思考分布の収束先

無意識を駆け巡る思考は有用だが、頭は狙った通りには廻らない。 多くの場合、無意識の頭を支配するのは、直前に気になっていたことだ。寝る前の数学の問題は、布団に入っても頭を占め続ける。新しいデッキの 60 枚が、四六時中頭を離れないこともある。 そ…

次の山への案内はない

この日記も二か月ほど続いた。一度はテーマが尽きたと思ったが、不思議なことに、最近またスムーズに見つかるようになった。 まるで鉱脈のように、テーマはまとまって分布している。毎日書くためのコツは、たまたま掘り当てた鉱脈から何日ぶんかの主題をひね…

道標を燃やす

現実は、抽象の方角を示す案内板だ。実際に何かを体感するからこそ、私はそれを理解したいと思う。 だが同時に、過剰な現実は、看板を見る暇を与えてくれない。目の前の出来事は、私の頭を溢れさせんとばかりに矢継ぎ早に襲い掛かってくる。有無を言わさぬ具…

夜空に星を探さない

私の頭はしばしば、制御を失った思考の濁流に捕らえられている。 例えば、夜。布団に入ってから眠りにつくまでの、わずかなことも長いこともある時間。思考が整理されるのか、うまくいけば時折、悩んでいた問題の手がかりが驚異的な明確さで現れてくる。 私…

無知の無理の無視

知るという行為は不可逆だから、無知の価値は知にまさる。 例えば私は、いまの小学生の流行りを知らない。実のところ、むしろ知りたくない。流行りものはともすれば偶然目に入ってしまうから、むしろ時代遅れの方が貴重なステータスなのだ。 小学生と会うこ…

摩天楼に綱を聞く

難しい話は、一度おいていかれたら終わりだ。一時間のスライド、そのほんの一枚を見逃しただけで、もう残りはちんぷんかんぷんになる。話を追う方法はただ一つ、片時も集中を緩めず、一言も聞き逃さないことだ。 だが人の思考は気まぐれなもので、すぐに明後…

文章の圧縮

文章を書く楽しみ。 そのひとつは、縮めることだ。 経験上、良い文章は、より長い文章を限界まで縮めて得られる。一発書きで良いものは書けない――初稿は書くだけで精いっぱいで、いつだってぼんやりしている。大事なのは、曖昧な殴り書きから一貫したストー…

精神論とその逆と

できるはずのことと、できることとは違う。うっかり逆向きの電車に乗ってしまうこともあるし、簡単なはずの問題はときにまったく解けない。足元に張られた透明なロープのように、しばしば不可能は予想のはるか外から潜り込んでくる。 精神論は、この計算違い…

これは日記か

日記を銘打っておきながら、私の生活はほとんどここに記されない。パソコンと布団の間の二メートルの往復に、取り立てて書くほどのストーリーは宿らないからだ。 だが、文章の内容は、その日の生活に全く無関係でもない。昨日私がプログラムについて書いたの…

厳密さのレベル

数学的厳密さは、理解する者を選り分ける篩である。生半可な理解では、細部まで厳密な証明は書けないからだ。 プログラミングにも同じことが言える。一般的な手続き型言語において、機械が認識する厳密さのレベルは、数学が厳密と呼ぶレベルとかなり似通って…

書き直しの正当化

数学の証明を書き始めるには、物語を始めるよりはるかに高解像度の理解が必要だ。往々にして、見切り発車は失敗する――やればできるだろうと思って放っておいたところに、しばしば問題の本質が隠れているからだ。 だが気を付けていてもなお、証明は頓挫する。…

創作と研究の方向性

創作も理論研究も、ストーリーを作る営みである。クライマックスに向けて物語を展開するのが創作で、主定理に向けて証明を展開するのが数学の理論研究だ。 もちろん、物語も証明も、思い通りには進まない。展開を続けるうちに、当初の予定とはまったく異なる…

文体の書き分け

複数視点の一人称で物語を進める以上、現在の視点人物が誰なのかは常に明確にしておかなければならない。これまでは、一人称を用いて視点を区別してきた。「私」「アタシ」の別において誰の物語かがわかる、そういう算段である。 視点を特定するという最低限…

キャラクターとエピソードの輪廻

短い言葉は、多くの内容を語らない。情報量的な問題で、複雑な何かを伝えるには長文が必要になる。 例えばキャラクターの設定は、複雑なもののひとつだ。キャラクターはそれぞれ固有のものでなければならない。そして、個性を感じられるほどに詳しく人間を描…

設定の膨大さ

言語化は、先へ進むための良い手段だ。世の中に、他人に、あるいは自分の心に渦巻く感情に悶々としても、言葉にすれば納得できる。 もちろん、自分を納得させるだけの言語化は簡単ではない。自分自身の欺瞞に一番敏感なのは自分自身だ。だからこそ、物事をよ…

名前情報の伝達

現実の会話において、話し相手の名前が不要なことは多い。相手の正体は、会話の内容そのものに比べれば些細な問題だ。行きつけの店で会う数年の仲の名前を知らない、こういったことが起こるのは、単に名前という情報が話に無関係だからだ。 もちろん、初対面…

著者への言及とリスペクト文化

ことアカデミアにおいて、仕事が誰の手によるかは重要とされる。論文情報には、必ず最初に著者名が含まれる。それどころか、『フォン・ノイマンの 1947 年論文』のように、論文への言及がタイトルを含まないことすら普通である。 創作についても同じことが言…

すべての箇所に情報量を

サイドストーリーが完結した。「前編」「中編」というタイトルからも分かる通り、当初の予定では二~三話になる予定だった。 だがいかにも、現実には七話にまで伸び、「後編④」などという不可解なタイトルが生まれた。当たり前のことを痛感した次第である――…

追憶 side: ハルカ エピローグ

一週間後、私は《中央地区》の病院にいた。太腿の傷は深く、歩けるようになるまではもう少しかかりそうだった。 両親向けの説明では、傷は機械実習の授業でできたことになっていた。肩に残る不自然な刺傷を見れば、両親はその嘘に気づいただろう。だが幸いな…

追憶 side: ハルカ 後編④

「あら、ずいぶんと遅かったようね」嘲笑うような女の声が、図書館の薄闇に不協和音を奏でた。振り向くとそこは壁で、もうひとつの光源の中で小柄な女が狡猾な笑みを浮かべていた。女の右手には槍が握られていて、先端の金属が病的な青白さできらめいていた…

追憶 side: ハルカ 後編③

サロエの反応は素早かった。最初の一閃で、サロエの右腕が男の顎を砕いた。彼女はそのまま男の髪を掴み、乱暴に階段に引きずり落とした。男の身体が目の前を転がり落ち、靴が慣性のままに飛んで私の顔をかすめた。 続く左腕の一撃は、後ろの無防備な女の腹を…

追憶 side: ハルカ 後編②

「着いたぞ」サロエが足を止めた。見たところそこはただの路地で、ボロボロの二階建てが立ち並んでいた。正面の建物の窓にガラスはなく、泥だらけの窓枠にはスズメバチの巣がかかっていた。もはや用をなしていない詰まった側溝からは、真新しい吐瀉物の不愉…

追憶 side: ハルカ 後編①

《産業地区》の暑苦しい煙の臭いは消え、秋の夜の冷え込みを肌に感じた。道幅は《中央地区》ともさほど変わらなかったが、すべてが灰色に薄汚れていた。心なしか、道端の草木さえも元気なく萎れているように思えた。 学校を出てからここまで、サロエは一言も…

追憶 side: ハルカ 中編

「……ハルカさん?」 どすの効いた女性の低い声に、私ははっと目覚めた。額にじんと痛みを感じ、手でさすると机の痕がついているのが分かった。古文書を開いたまま、知らぬ間に私は寝ていたようだった。 目の前に立つ女性が誰だったか思い出し、私ははっとし…